本書は、5億4100万年前から現在に至る海の生命の歴史を俯瞰する一冊だ。
「生命史は海から始まります。しかし脊椎動物が陸に上がり1〜2億年経つと恐竜の話がメインになり、海の話は忘れ去られ、サブトピックになってしまうことが多いんです」
自身も大学・大学院で白亜紀の海の地層や化石を研究していた著者の土屋健さんは、それが「悔しかった」という。海の古生物が注目されにくいのは、メディアを通じて人口に膾炙した恐竜の圧倒的知名度ゆえ。しかし海洋生命史の世界も、恐竜に負けず劣らず面白い。
「海洋生命の栄枯盛衰は、非常にシンプルでわかりやすいんです。というのも、軟骨魚類というグループが、登場以来、常に“主役”に近い位置にいるからです」
軟骨魚類は、約4億1800万年前(古生代デボン紀初頭)に登場した。全身の骨格が軟骨で構成され、サメ類が含まれる。現在でいえば、映画『ジョーズ』で知名度抜群のホホジロザメや、世界最大の魚・ジンベエザメが有名だ。
「実はサメは安定した人気ジャンル。雑誌『Newton』でも、サメ系の記事は人気がありました。女性ファンが多いのも特徴です」
表紙にサブタイトルの『サメ帝国の逆襲』の方が大きく書かれているのも、その人気ゆえ(『サメ帝国〜』のネーミングは、編集者のアイディアとのこと)。軟骨魚類の魅力とは何だろうか。
「歯以外の化石が残りにくいので、謎が多いことでしょうか。謎がなくなったら、科学は面白くないですよね(笑)。全長値さえわからない種も多く、たとえばメガロドンという絶滅した巨大ザメの大きさは、全長12〜20メートルと、資料によって見解が分かれています」
もちろん軟骨魚類だけでなく、その時々の海の支配者“トッププレデター”を中心に、様々な生物の情報が網羅されている。
「最前線で研究されている研究者4人に監修をお願いしました。絶滅した軟骨魚類、海棲爬虫類のモササウルス類、哺乳類のクジラ類の絶滅種については、日本の一般書の中で一番、情報が整理されている自信がありますので、昔からの古生物ファンにも楽しんでいただけると思います。初めて古生物の世界に触れるみなさんには、まずは、こんなに不思議な生き物がいて、こんな謎があるんだと楽しんでいただけたら」
月本佳代美さん、服部雅人さんの迫力満点のイラストも、想像力を掻き立てる。
『海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲』
古生代最大最強の「甲冑魚」ダンクルオステウス、中生代の「四肢と尾がヒレとなったオオトカゲ」モササウルス類、新生代の全長20m級のクジラ類、サメ類史上最大級のメガロドンなどが登場。「サメの仲間」を“主役”に据え、海洋生命5億年の覇権と興亡の歴史を、豊富なイラストで徹底解説する。
つちやけん/オフィス ジオパレオント代表。サイエンスライター。金沢大学大学院自然科学研究科で修士号取得(地質学、古生物学)。科学雑誌「Newton」編集部を経て独立。『怪異古生物考』など著書多数。