このような道義的な問題に加え、元データの未提出は、様々な無駄を発生させる点でも罪深い。最終章で須田氏は、二〇一八年一月に京都大学iPS細胞研究所が発表した論文不正事件において、疑惑の研究員による検証実験要求を調査委員会がはねつけ、元データを精査することで不正の経緯が明らかにされた例を挙げている。京大の例では研究所が研究員の元データをきちんと保存する仕組みを持っていたにもかかわらず論文不正を防げなかったわけだが、その仕組みを持っていたがゆえに、不正の認定はスムーズに進んだ。対照的に、元データが未提出の理研のケースでは検証実験が行われ、時間的、経済的に大きなコストが発生したことを須田氏は指摘している。
本書には、STAP研究に関わった当事者、その周辺の関係者の他、理研の内部情報に通じる研究者も匿名で登場する。
どのように情報源にたどりついたのか、私は須田氏に直接尋ねたことがあるが、「人づてが多いですね。『あの人なら知っているよ』と。そういうとき紹介してもらうのではなく、自分からアプローチしました。ネタ元作りには苦労しましたね。その辺は全然書いていません」との答えだった。
理研に口止めされていたはずなのに、どうして彼らは須田氏に証言したのだろうか、須田氏自身が本書の中で次のように分析している。
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