2015.02.11 書評

真摯な取材の積み重ねで
立証の矛盾が明かされる瞬間

文: 河崎 貴一 (フリーランス・ライター)

『捏造の科学者 STAP細胞事件』 (須田桃子 著)

『捏造の科学者』とあるように、STAP細胞事件は、科学者が仮説を証明するために実験データや論文を都合よく捏造したという科学史上の大事件である。STAP細胞の評価は、「ノーベル賞級の世界的発見」という称賛から、5カ月後には、2000年代の科学史における「世界三大不正の一つ」とまで誹られるようになった。

 本書は、一連の報道でスクープを連発した毎日新聞科学環境部の中で、須田桃子記者が、取材メモや当事者とのメールのやりとりを、同僚記者の取材過程や報道内容とともに綴った取材ドキュメントである。

 捏造を疑われているのは、研究を主導した筆頭著者の小保方晴子氏。理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB。現・多細胞システム形成研究センター)で、細胞リプログラミング研究ユニットリーダーをつとめていた。

 偶然ながら、須田記者と小保方氏は、早稲田大学大学院理工学研究科の先輩後輩に当たるという点でも興味をそそられた。

須田桃子記者は1975年千葉県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了(物理学専攻)。2001年に毎日新聞に入社し、現在は本社科学環境部。iPS細胞の継続的な取材などを手がけてきた。

 STAP細胞は、「刺激惹起性多能性獲得細胞」を意味し、「STAP」はその英語の頭文字。小保方氏の説明では、細胞を弱酸(希塩酸)に浸けるだけで、あらゆる細胞に分化する多能性をもつ万能細胞に初期化されるという。しかも、京都大学の山中伸弥教授が4個の遺伝子から作製に成功した万能細胞「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」よりも簡単にかつ効率よく作製できて、より優秀な分化能をもつという。

 事実であれば、再生医療への応用や、治療薬の治験への利用にはずみがつく。莫大な利益を生む産業を早く創出する可能性があり、その前に研究グループや研究機関には潤沢な研究資金が約束される。実際、文部科学省は、その直後、理研を「特定国立研究開発法人」に指定して、研究者が高額の年俸を受けられるようにし、海外からも優秀な研究者を集められる体制に移行する方針をもっていた。

 STAP細胞の論文は、2014年1月、世界的な英科学誌『ネイチャー』に掲載されて、フィーバーに火が着いた。その火勢を煽ったのは、30歳の未婚美人にして、説明もどこかあどけない小保方氏の魅力だった。

 ところが、会見直後から、論文に掲載された実験写真の切り張りや疑義、他の論文からのコピペなどが指摘されるようになった。掲載から3カ月足らずで、調査委員会は論文中2件の画像について「研究不正行為があった」と認定することになる。

【次ページ】不採用となった科学誌の論文を徹底検証

捏造の科学者 STAP細胞事件
須田桃子・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2015年01月07日

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