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科学史に残る不正事件に記者はどう立ち向かったか?

科学史に残る不正事件に記者はどう立ち向かったか?

文:緑 慎也 (サイエンスライター)

『捏造の科学者』(須田桃子 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『捏造の科学者』(須田桃子 著)

 須田氏の《「研究成果のどこまでが真実だったのか」と「STAP細胞があるのかないのか」。(略)二つの命題の後者にばかり熱心な理研の姿勢への不信感》(一七六頁)は、《このまま幕引きを許せば、真相は永遠に闇の中に葬り去られる。それは、日本の科学界、及び科学ジャーナリズムの敗北とも言えるのではないか》(二五二頁)という危機感に変わる。そして《末席ながら科学報道に携わる一人として、また当初、STAP細胞を素晴らしい成果と信じて報じてしまった責任を果たすためにも、それだけは何としても避けたかった》(同頁)と強く決意する。こうして須田氏らが「検証実験」という名の論点ずらしに惑わされず、厳しく理研を追及したからこそ、二度目の調査委員会が設置されたのだと私は理解している。

 二度目の調査委員会は《膨大な解析によって論文の主張には根拠がないことを証明し、科学的疑義への結論を出すことに成功した》(四一三頁)。しかし、須田氏の指摘するとおり、すっきりしない点がある。ES細胞混入の経緯を明らかにできなかったこと、及び小保方氏に元データを提供させられなかったことである。

 ES細胞を誰が混入したのかは非常に気になる謎ではある。しかし私は、元データを出せないことのほうがより根が深い問題だと思う。須田氏の次の指摘は重要だ。

《元データやパソコンが提出されなかったことが、結果的に検証作業や不正の認定を困難にしたのは事実だ。他方、たとえば若山氏が調査委に提出した資料の中には、若山氏自身の責任の重さや不注意、研究室運営上の問題を印象づける内容も多く含まれていた。提出しなかった側が何ら咎められず、どんな釈明も容認されるなら、提出しない方が得だということになりかねない》(四一五頁)

文春文庫
捏造の科学者
STAP細胞事件
須田桃子

定価:1,177円(税込)発売日:2018年10月06日

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