本が大好きな大学生・春日枝折は、出版社に入って本作りをするのが夢だ。そして就活の甲斐あり、見事意中の出版社に入社した。ところが彼女が配属されたのは電子書籍編集部。大好きな紙の本に比べ、「空虚で空疎」としか思えない電子書籍の仕事に、枝折はどうしてもやる気が起きず……。
柳井政和『#電書ハック』は、そんな新入社員の憂鬱で幕を開ける。「なんで電子端末なんかで、本を読もうとする人がいるんですかね。紙の本の方がいいと思うんですけど」というのが彼女の本音だ。好みの問題とはいえ、共感する読者も一定数いるだろう。
電子書籍が市民権を得たのは、KindleやiPadなどリーダーとなる端末が普及してから。当時は「紙の本の代替品」の意味合いが強かった、と記憶している。そのため単行本や文庫のサイズに近い端末で、ページめくりという機能を持たせたり背景を紙のような風合いにしたりなど、読み心地を「紙に近づける」工夫により読者を獲得していった。紙ありき、の発想である。
そこに収納場所を取らないことや、マーカー機能やテキスト検索機能、読みたくなったらすぐ読めるという電子ならではの利便性が注目された。フォントサイズや明るさを変えられることで老眼や視力の弱い人も、指一本のページめくりで手の不自由な人も、ストレスなく読書が楽しめるようになった。これらは電子書籍ならではのメリットだが、やはり「紙の本を電子デバイスで読んでいる」という感覚がベースにある。
一方、紙の本ならではの良さももちろんある。作中で枝折が主張する、紙の本を読むということの「体験」の大切さには強く頷いた。とまれ、中身は同じなんだから、それぞれのいいところを大事にして共存していけばいい……私はそう思っていた。しかし、それがとんでもなく狭い部分しか見ていない考えだったことに、『#電書ハック』を読んで気付かされたのである。
本書(書、と言っていいのかな?)に描かれているのは、作家の立場から見た電子書籍の現実だ。初版印税保証のない電子書籍では作家には不利益しかない、電子出版なら自分でもできるのに出版社を通す意味が(現時点では)ない、出版社は電子書籍をどう捉えているのか、などなど。
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