特に蒙を啓かれたのが、電子書籍は「紙の本の代替品」ではない、という事実だ。私の世代は本=紙だったから代替品感覚で電子書籍を読んできたが、そもそも最初からデジタルコンテンツとして触れる世代が社会に出てきているのである。ゼロ年代のケータイ小説ブームしかり、現在の著者と読者の双方向コミュニケーションで成り立つ「小説家になろう」「カクヨム」「pixiv」しかり。
横書きの方が馴染みがある、ページめくりよりスクロールの方が便利、という世代は確実に増えつつある。webやスマホで読みやすい文体と紙の本に適した文体は違う、という事実もある。実際、私もweb連載が本になったとき、思いがけず読みにくくてすべて書き直した経験がある。では、共存などできないのか? そのとき「本」はどうなるのだろう? そのひとつの提言がここにある。
黎明期、電子書籍は黒船に喩えられた。電子は紙を駆逐するのか、町の書店はどうなるんだ、いやいや紙の本はなくならない、などの議論は今も続いている。冗談じゃない。この『#電書ハック』こそ、本来の意味での黒船だ。紙vs電子の対立構造で考えている場合ではないのだと、後ろから脳天をぶんなぐられた気がした。
作中に登場する作家や電子書店の社員が語る電子書籍のあり方、それに対して出版社側の枝折の考え方がどう変わったかは、すべての本好きと、本に関わる業界にいるすべての人にぜひお読みいただきたい。
だが、これだけは言っておかねばならない。本書は決して紙の本の否定でも電子礼賛でもない。本書で最も大事なことは、媒体に合わせた戦略が必要ということであり、それ以前に、作家は何を書くのか、なぜ書くのか、ということこそがすべての基本であるという力強いメッセージだ。小説そのものが持つ力を、作家がどうしても伝えたいという熱い思いを、最大限に発揮させる媒体としての紙であり電子である。柳井政和はそう高らかに宣言しているのである。
実に興味深い試みだ。本書はwebやスマホで読むことを前提に文章が組まれている。私はテキストデータを敢えて紙の本の体裁にPDF化してiPadで読んだが、改行が多くて読みにくい箇所が多々あった。本書が紙になったら文体や字組みがどう変わるのか、ぜひ読み比べてみたい。この実験に参加しない手はない。そのためにも、まずはwebでの一読をお勧めする。
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