
- 2019.03.26
- 書評
ラテンアメリカとキューバ革命の壮大な叙事詩に仕掛けられた華麗なトリック
文:八木啓代 (音楽家、作家)
『ゲバラ漂流 ポーラースター 2』(海堂 尊 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
だからこそ、なのだろう。
この、日本人には馴染みが薄く、しかも魑魅魍魎が跳梁跋扈する複雑怪奇な時代背景を鮮やかに浮かび上がらせるために、海堂氏はいくつもの華麗にして壮大なトリックを仕掛けている。
たとえば、当時の中南米の輪郭を描くために、前書ならびに本書では、いくつもの魅力的な《嘘》が語られる。
たとえば、本書の前編『ゲバラ覚醒』で描かれているように、エルネスト・ゲバラ青年が、日本ではミュージカルで有名になったアルゼンチン大統領夫人エビータ・ペロン(小説内では、ジャスミン)と親しかったという史実はない。
また、『モーターサイクル・ダイアリーズ』で一緒に旅をしたアルベルト・グラナード(小説内では、ピョートル・コルダ)は、ゲバラ本人よりはるかに長生きして、革命後のキューバに渡って医学校を創設し、本を書き、くだんの二〇〇四年の映画にも、しっかりゲスト出演していたりする。
若き日のゲバラは、確かにボリビアに滞在はしていたが、本書の中のエピソードのように、どさくさまぎれにボリビア革命に参加して前線で銃を握ったりなどしていないし、ペルーの大政治家アヤ=デラトーレ(殿下)に、極秘に会見し、政治についての激論を交わしたというのも、もちろん、史実ではない。
こちらもおすすめ
イベント
ページの先頭へ戻る