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【試し読み】本屋大賞受賞! 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』第5回

文: 瀬尾 まいこ

『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ 著)

「俺、朝からカレーでも餃子でもいけるんだけど、さすがに揚げ物はなあ。昨日、メロンパン買ったからそれ食べるよ。ここの店の、おいしいって評判らしいんだ」

 森宮さんが袋から取り出したメロンパンからは、バターの香ばしいにおいが漂っている。私だって朝から揚げ物なんていらないし、評判のメロンパンが食べたい。この人は、共に食卓を囲む人が同じものを食べるということを知らないのだろうか。

「あ、このパン、噂どおりなかなかおいしい」

「よかったね」

 私はメロンパンをほおばる森宮さんをうらめしく見ながら、かつ丼を口に入れた。胃も少しずつ活動し始めて、何とか受け入れてくれている。

「朝だからさっぱりしてるほうがいいと思ってヒレ肉にしたんだ。柔らかくするために肉を叩きまくったんだけど、どう?」

 森宮さんは自信ありげな口調で言った。

「そうだね。おいしいよ」

 食べ慣れてくると、だしの染みたご飯は優しい味で、それなりにおいしく思えてくる。朝からかつ丼はこりごりだけど、森宮さんの努力は感じられる味だ。それに、森宮さんはどんな失敗作でも私が作った料理は必ず完食してくれる。私だってちゃんと食べきらないと。学校に行くまであと二十分。急がないと間に合わない。私は勢いをつけて、かつを口にほうり込んだ。

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そして、バトンは渡された瀬尾まいこ

定価:本体1,600円+税発売日:2018年02月22日


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