- 2019.07.12
- インタビュー・対談
名画を守り続け、そして取り戻した人々──『美しき愚かものたちのタブロー』(原田マハ 著)
「オール讀物」編集部
【第161回直木三十五賞候補作】
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『美しき愚かものたちのタブロー』は、今年で開館六十周年を迎える東京・上野の国立西洋美術館の設立に携(たずさ)わった人々の実話を元に描かれた物語だ。これまでも美術小説を多く書いてきた著者が、なぜこの物語を、書きたいと思ったのか。それには、自身もずっとモチーフとしてきたモダンアートについてのある問いがあった。
「“日本人は、なぜモダンアートがこれほどまでに好きなのか”という疑問が、執筆の動機のひとつでした。ゴッホやモネなど印象派の作品が、日本の絵画に強い影響を受けていたことも、理由の一つですが、白樺派などの紹介で、たいへん早い段階から、日本人がモダンアートに親しむ環境にあったというのも大きかった。それを突き詰めていくと、国立西洋美術館に辿(たど)りつきます。そして、その設立の背景には、第二次世界大戦という困難を乗り越え、諦めず交渉を重ねた先人たちの存在がありました」
開館当時、その展示作品の中心となったのが、川崎造船所などの社長を務めた実業家・松方幸次郎(まつかたこうじろう)が、戦前に買い集めた“松方コレクション”だ。松方は、第一次世界大戦時の造船景気により、財をなし、多くの絵画作品を購入し、美術館を設立する計画をたてていたが、世界不況による経営難から、会社は破綻し、欧州で保管されていたコレクションも、戦争のさなかで散逸してしまった。戦後、その一部が日本に返還されることが決まったが、その条件は厳しく、主立った作品は、返還リストからは外されていた……。
「タイトルの〈愚かもの〉とは、ゴッホ、モネ、マティスといった当時のフランスのアカデミーでは斬新すぎて評価されなかった画家たち。また、当時まだ前衛的という評価の彼らの絵画を集め国内に美術館を作ろうとした松方。その松方の依頼を受け、欧州を奔走し、良き作品を探し集めた矢代(やしろ)(作中では田代(たしろ))。松方の命を受け、戦時中のフランスにとどまり、作品を守り抜いた日置(ひおき)。そして戦後、没収されかけた絵画を、一枚でも多く返還させるために一役買った当時の首相・吉田茂(よしだしげる)。いずれも、タブロー(絵画)に魅せられ、バトンを引き継いだ人々です。その美しいまでの彼らの愚直さに、敬意を込めてこのタイトルを付けました。誰もやったことがない試みは、同時代の人には、時に“愚かなこと”に見えます。でも『国立西洋美術館』とその作品群は、〈愚かもの〉の起こした奇跡の積み重ねです。この小説を書くことで、その奇跡が目の前にあることの素晴らしさを知ってもらうきっかけになればと願っています」
はらだまは 一九六二年東京都生まれ。二〇一二年『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞、一七年『リーチ先生』で新田次郎文学賞を受賞する。近著に『常設展示室』など。
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