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結婚式、直木賞受賞、そして『東京會舘とわたし』。ミステリーのように不思議なご縁で導かれた大好きな場所

結婚式、直木賞受賞、そして『東京會舘とわたし』。ミステリーのように不思議なご縁で導かれた大好きな場所

辻村 深月

『東京會舘とわたし』文庫化記念トークイベント


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

大正期から引き継がれるシャンデリアの秘密とは

最初は七話のつもりだったのですが、「もっと続けてほしい」と編集部から言っていただいたことで、連載がのびることになりました。ミステリーだと構成上、延長は難しいのですが、東京會舘には幸い書けるエピソードがまだまだたくさんあったんですよね。第八章の「あの日の一夜に寄せて」は、東日本大震災の日のことで、會舘に実際に届いたお礼のお手紙を元にできていったお話です。會舘が行き場をなくした人たちに一般開放されたということを知って、取材して書きました。

第九章の「煉瓦の壁を背に」の主人公は作家です。作家が作家について書くのは実は非常に難しいのですが、東京會舘の小説だからということで思い切れました。主人公はこの話の中で直木賞を受賞しますが、これは他の回を使うわけにはいかず、私自身が受賞した回の時間を使った話になっています。でも連載が延びたことによって、上下刊にページ数もぴったりにうまく分かれる本になり、それぞれに「旧館」「新館」というサブタイトルをつけました。


 

大正時代から引き継がれたシャンデリア

文庫版の装丁は上下刊で並べると、背景が夜と昼のシャンデリアになっています。黎明期から、明るい未来に広がっていく感じがして素敵な装丁ですよね。文庫で追加した新章にも書いたのですが、このシャンデリアは大正時代からずっと會舘に飾られている象徴的なものです。大正時代はローズルームというお部屋に三基並んでいたそうです。昭和四十六年の建て替えの時に會舘に一基引き継がれ、一基は「明治村」に寄贈され、一基は修理が必要になった時に備えて倉庫で保管されたそうです。新しくなった建物にももちろん引き継がれていて、保存されていた一基の部品はほぼ使い切ったと伺いました。三基分の命を継承している明かりなのだと思うと、感動します。こういうシャンデリアや、ローズルームというお部屋の名前、また第六章で書いた「金環」の照明も新しい本館の一階に使われていたりと、昔の會舘の思い出を大切にしているお客様の目線に立って、「変わらないままに、どう新しくするか」に心を砕いている東京會舘が私は大好きです。

単行本が出来た時はちょうど東京會舘が建て替え中でしたが、嬉しいことに文庫が発売された記念に新しくなった東京會舘でお話をすることができました。どうか皆さん、シャンデリアを見ていただいたり、マロンシャンテリー以外にも美味しいお菓子やお料理を食べていただいたり、この場所を訪れて、ご自分の「東京會舘とわたし」の思い出をここから作ってください。本日はありがとうございました。

 

(2019年9月20日 東京會舘ローズルームにて)

 

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文春文庫
東京會舘とわたし 上 旧館
辻村深月

定価:803円(税込)発売日:2019年09月03日

文春文庫
東京會舘とわたし 下 新館
辻村深月

定価:803円(税込)発売日:2019年09月03日

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