- 2022.02.21
- インタビュー・対談
祝・直木賞受賞記念 12年前の「CREA」豪華座談会を特別公開! 辻村深月×道尾秀介×米澤穂信
出典 : #CREA
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
,#歴史・時代小説
2000年代に相次いでデビューし、同世代作家として親交を深めてきた三人。米澤穂信さんの『黒牢城』が第166回直木賞を受賞したことを記念し、2010年「CREA」誌上で実現した賑やかな座談会をWEBで特別公開します。
さらに米澤穂信さんの直木賞受賞を喜ぶ、辻村深月さんと道尾秀介さんの、12年ぶりとなる座談会が「オール讀物」3・4月合併号(2月22日発売)の直木賞特集で実現! 残念ながら今回は居酒屋にはいけませんでしたが、変わらぬ仲の良さと、年月を経て強まる“同志感”に溢れる鼎談は、「オール讀物」3・4月合併号誌面にてぜひお楽しみください。
どこでどうして繫がった? “作家仲間”の成り立ち
米澤 まずは山本周五郎賞、おめでとうございます!(と、プレゼントの包みを手渡す/編注※道尾さんは2010年『光媒の花』で第23回山本周五郎賞を受賞)
道尾 おー! ありがとう! なんだろう……あ、スコッチだ! 俺、スコッチが一番好きなんだよね。嬉しいな。
米澤 良かった。一番好きだとは知らなかったけど(笑)。あと、辻村さんにはこれを。吉祥寺虎屋のどら焼きでございます。
辻村 えっ! いいんですか? 凄い嬉しいっ!!
道尾 じゃぁ辻村深月にも好感度UPのチャンスをあげよう。スコッチで駄洒落言っていいよ?
辻村 そんなチャンスいりませんよ(笑)。
道尾 ヒント。このスコッチどれぐらい入ってる?
辻村 ……すこちだけ。うわー!! 米澤さんの細やかさとは違うお気遣い、ありがとうございます。いきなり、凄いむちゃぶりだったけど!
道尾 どら焼きってさ、いつ食べても美味しいよねぇ。って、あれ? どら焼きってもしかして、辻村さんが『ドラえもん』好きだから?
米澤 そうですよ(笑)。
辻村 気づくの遅い!
道尾 そうかそうか。失礼しました。ところでさ、居酒屋座談会っていっても、ふたりともお酒呑まないんだよね?
米澤 呑まない(笑)。
辻村 呑めない(笑)。
道尾 これ、俺を酔い潰して陥れようとかいう企画じゃないよね?
辻村 大丈夫。気にしないでどんどん呑んでください。
道尾 じゃあ遠慮なく。そもそも俺と辻村さんは綾辻行人さん繫がり(編注※道尾さんがデビューした新人賞の選考委員であり、辻村さんがデビュー前から敬愛していたミステリー作家)で親しくなったじゃない? 『びっくり館の殺人』のサイン会で初めて会ってさ。
辻村 紀伊國屋新宿南店の。それまで会ったことなかったのに、いっしょに行ったんですよね。ちょうど共通の知人がいて。
道尾 書店の入り口で待ち合わせてね。
辻村 で、列に並んでる間にいろいろ話して。
道尾 なんつってもサイン会は並ぶのが醍醐味だから!
辻村 道尾さん、私のサイン会にもよく来てくれますよね。事前連絡なしで、ふらりと(笑)。
米澤 僕のところにも。あれ、驚きますよ。顔上げたら道尾さんがいるんだから。
辻村 私と米澤さんは『ミステリマガジン』の企画が初対面でした。
米澤 そうそう。笠井潔先生が、若手の3人、僕と辻村さんと北山猛邦さんを集めて座談会するという縁で。
道尾 そうなんだ。俺と米澤さんは『蝦蟇倉市事件』(編注※不可能犯罪が多発する街を舞台にしたアンソロジー。道尾さんの作品は2010年1月刊行の〈1〉に、米澤さんの作品は2月刊行の〈2〉に収録)の打ち合わせが最初だっけ? その後、渋谷でSRの会(編注※老舗のミステリー同好会)の公開対談もしたよね。
米澤 まだ道尾さんの『ラットマン』が出る前だったかな。
道尾 そうそう。結構前だよね。
辻村 道尾さんも米澤さんも、私にとっては作家になって初めて出来た友達ぐらいの感じなんですよ。年齢もデビューもわりと近いから、自然に打ち解けられて。
道尾 歳が近いってだけで、珍しいからね。デビューしたのは米澤さん(2001年)、辻村さん(2004年)、俺の順。俺と辻村さんは約半年違いだけど。
米澤 某社の新年会で綾辻さんと同席したときに、今回はホラサス(編注※「ホラーサスペンス大賞」。道尾さんは第5回特別賞を受賞しデビュー)から凄い新人が出たよ! って聞いていて、それが道尾さんだったんですよ。
道尾 そんなことがあったんだ。結構まだ知らないことがあるもんだなあ(笑)。
睡眠時間、一時間!? 兼業時代と専業作家の日々
辻村 でも米澤さんと私も、最初に会って、その後1回ぐらいみんなで一緒に遊んで、それから5年近く御無沙汰でしたよね(笑)。
米澤 ……それ、別に言わなくてもいい話じゃない?(笑)
辻村 いやいや。その会ってない間もね、書店に行って新刊を見たり、雑誌で活躍しているのを読んだりしてたから、今年道尾さんが大藪賞を受賞されたときの二次会で久しぶりに再会したときも、あまり距離を感じずにいられたんですよ。
米澤 「作品を通じて、いつも会っているような気がしていました」みたいな?(笑)
道尾 へぇ。面白いね。俺は実際に会いたいほうなんだよね。実は基本的にふたりの作品もほとんど読んでないし。
米澤 それも言わなくていい話なんじゃないの?(笑)
道尾 いやぁ、人の作品ってどうしても自分の作品ほど興味持てないじゃない。そもそも考えてみれば、普通の会社に勤めてて、同年代の友達の仕事を細かく知ってる奴なんていないわけだしさ。
米澤 そうだね。「お前、今なにやってんだ?」ぐらいかも。
道尾 久々に会って「この間、こんな小説書いてさ」って、それぐらいでいいじゃん、って思うんだよね。だから俺の場合は、本屋さんでふたりの新刊が出ているのを見ても、べつに会った気にはなれない(笑)。
辻村 会った気になるっていうか、たとえば私は米澤さんが雑誌に寄稿されていたエッセイを読んで、すごく励まされたことがあって。そのときは、会ってない時期だったけど、米澤さんにアドバイスを貰ったような気がして迷いが吹っ切れたんですよ。
米澤 おぉ、それはイイ話だ。
道尾 どうでもいい話、じゃないね。俺と違って。
辻村 そうですよ。大事な存在だっていう話です(笑)。それにしても私たち、年齢以外にも共通点結構ありますよね。私は一昨年ぐらいまで事務系OLの仕事もしていたんだけど、道尾さんも米澤さんもデビュー当時は兼業だったし。
道尾 そうだね。作家は夜型が多いと思われがちだけど、わりと普通の会社員の人たちと変わらない生活サイクルで仕事してることとか。あ、でも米澤さんは、結構フレキシブルで、時期によっては昼夜逆転することもあるんだっけ?
米澤 そう……って、なんでそんなこと知ってるの(笑)。僕は昼間、意識が鮮明だと、自分の書いてる文章に凄くチェック機能が働いて、これじゃダメだ、まだダメだって満足できないことがよくあるんですよ。それが寝る直前ぐらいになると「すべては読者が判断することだ」ってギアが変わって。いよいよ山場になってくると、3時間ずつ分割睡眠状態になったり、本当に日によって、原稿の進行状況によって、まちまちかな。
辻村 でも、兼業だったときのことを考えると、どれだけ締め切りが、とか、原稿量が、とか言ってても今は本当に幸せだと思う。
道尾 俺は8年間会社勤めして、兼業は最後の1年くらいだったんだけど、あの時期の集中力は永遠に取り戻せない自信がある(笑)。
米澤 僕も書店員時代は本売りながらプロット書いてたな。カウンターの内側で。
道尾 兼業って、なにしろ時間がキビシイよね。俺も勤めてたのが朝早くて夜遅い会社だったから、夜の11時くらいに帰ってきて、朝5時まで書いて6時に起きて出勤するような生活だった。でも気が張ってるから、風邪ひとつひかないんだよね。今、その生活しろって言われたらもう無理。絶対無理(笑)。
友情と嫉妬心を量る彼らのメジャースプーン
辻村 さっき道尾さんが私たちの小説読まないって言ったけど、私は結構、ふたりの作品読んでるんですよ。で、これは絶対自分には書けないと、正直、嫉妬もするんだけど――。
道尾 嫉妬するんだ。
辻村 するする(笑)。だけどニクイとかじゃなくて、じゃぁ私にしか書けないものって何だろうって方向に考えるの。
道尾 そうか。俺はまたこれがね、他の作家に嫉妬したことってないの。もし嫉妬するようなことがあったら、もう絶対に書けない。これはもう完全に思い込みの世界なんだけど、俺は自分より面白い小説を書ける人は世の中にいないと信じてて。一歩でもそこから退いたら書けなくなっちゃうんだよ、俺の場合。読むより書くほうが面白いから作家やってるんだもん。
辻村 私はその辺、大人になった(笑)。デビューする前は、打ちひしがれて書けなくなるから、もう嫉妬すること自体がイヤだったんだけど、作家になれたときに、自分じゃない誰かが私の小説を承認してくれたことが凄く嬉しくて。他者から認められたって実感できたら、他の作家さんの作品も素直に感心したり、感動できるようになった。揺らがなくなったっていうか。
米澤 僕は他の人がどんなものを書いていて、それが良かろうが悪かろうが、自分のやることは変わらない、ただ、できることをするしかないって思いが強いかな。あ、でも、道尾さんの『向日葵の咲かない夏』は凄く良くて、それこそやられたなと思った記憶がある。
道尾 あれは賛否両論で、インターネットの感想も大絶賛してくれている人もいれば、ボロクソに貶されたりもしたんだよ。以来、ネットの感想を一切見なくなった。まぁ、なんと言われても、けっきょく自分が面白いと思ってるからいいんだけどね。読者のために書いてるわけじゃないんだから(笑)。
米澤 僕は小説書いてて面白いと思ったことはあんまりないなぁ。
辻村 え――!?
道尾 なんでなんで?
米澤 小説書くのって、自分にとっては登山みたいなもので、山に登る前に計画するのは凄く楽しいし、登りきったときも嬉しいけど、途中は苦しいだけで面白くもなんともないじゃない(笑)。
道尾 ゲラ読むのも嫌い?
米澤 嫌いっていうか辛い。
道尾 俺は自分の原稿のゲラが送られてきて、それをチェックして読み直すのは至福の時間(笑)。
辻村 私もゲラだけずっとやっていたい(笑)。
道尾 世の中にこんな面白い小説あったのか! とか思いながら、誰が書いたんだ? 俺か! みたいな(笑)。
辻村 わかる(笑)。その辺、私と道尾さんは似てるよね。ゲラになる前、自分の原稿を読み返してるときも楽しい。ここをこうしたら、もっと良くなるんじゃないかってアイデアがどんどん満ちてくる、完成形が近付いてくるときのあの感じが好き。
米澤 僕は書き上げて編集者に「完成しましたのでお送りします」ってメール書いているときが一番好き(笑)
道尾 あと、ごくたまにだけど、編集者の一言がヒントになって原稿を調整して、最終的に自分ひとりの力では行けない場所にたどり着けたときも嬉しい。
米澤 それはあるね。
辻村 具体的なことじゃなくても、「ここもう一押しできます」とか、「もう少しどうにか」って、言われると、私はよし、やってやる! って闘志が湧く。で、実際に言われる前より良くなったりすると凄く嬉しいな。
道尾 考えてみたら、編集者って独特のポジションだよね。他の人の言葉がきっかけで良くなっちゃったら、きっと悔しいじゃない。
米澤 確かに。もし刊行前の原稿を「これ道尾さんちょっと読んでよ」って言って渡して――。
道尾 俺が「ここ、もうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」なんて言ってね。
米澤 それで良くなっちゃったら「あぁいいですね」って言いながら、だったらこれボツ! ってなるよね(笑)。
辻村 うわぁ、それコワイ。凄くコワイ!
計測不可能!? 3人の距離の概算
道尾 書くときにさ、米澤さんは自主的にカンヅメになったりするんでしょ? 有名だよね、米澤カンヅメ。
米澤 今は単純に、自宅の近所が工事中だからで(笑)。
辻村 『ボトルネック』の執筆中も、確か、どこかの宿に籠もってたよね?
米澤 あれはちょっと特別で、なかなか書き進められなくて自分を追い込むしかなかったんですよ。家で書いてると、掃除しなくちゃいけない、洗濯しなくちゃいけない、ご飯作って食べて片付けてって、執筆がぶつ切れになっちゃうから生活を遮断したかった。あと、カンヅメになると、当然滞在費がかかるわけで、早く書かないと赤字になるって追い込まれるし(笑)。
辻村 いいなぁ。ちょっと憧れる。実は最近、仕事が詰まってくると、ネットで目を付けてた宿の湯治プランとか見ちゃったりする自分がいる(笑)。
道尾 俺もカンヅメはやったことない。誰にも会わずに何日もひとりで書くって自分には向いてないし、やりたいとも思わない(笑)。逆に、人間の中にいないと書けない。人と会ったり喋ったりお酒呑んだりして、それがモチベーションになってるから。自分自身ってそんなに面白くないもん。
米澤 それは意外。面白さを外部から得てるんだ。
道尾 うん。もちろんその人から聞いた話をそのまま小説に使うわけじゃないけど、現実と地続きのものを書いてるって意識があるから、生身の人間や世の中って面白いな、と思えないと小説も書けないんだよね。でも、辻村さんも基本的には人好きでしょ? 酒呑めないけど、飲み会とかでもホイホイ付いてくるもんね(笑)。
辻村 ホイホイって、ヒドイ! 確かにそうだけど!(笑) なんか、何か楽しいことが起こるんじゃないかと思うと、呑めなくても行きたいんですよ。お酒のつまみも好きだし。あと、仕事関係以外の人に会うのも好き。昔からの友達とケンカしたりする感覚も失くしたくないんですよ。腹の立つこともあるんだけど、それがまたややこしくも楽しいというか。
米澤 そうか、人付き合いにアクティブなんだね。
道尾 そういえばさ、去年のクレアの読書号インタビューで、「仲のいい作家は誰ですか」って質問に、俺はふたりの名前を挙げて、辻村さんも俺の名前を挙げてくれたけど、米澤さんは「仲のいい人はいません」って答えてたよね(笑)。
米澤 あれはね、芥川龍之介と久米正雄みたいな文学的盟友みたいなことなのかと思ったから! ただ、あの引け目がなかったら、今日も来てなかったかも(笑)。
辻村 あのとき、私は道尾さんの名前を挙げて、道尾さんが言ってくれなかったらイタイことになると思って「先方もそう思ってくれてればいいんですが」みたいな枕ことばを入れた覚えがある。
道尾 さすが、“大人”は違う(笑)。
米澤 なるほどね。非社交的な私ですが、これからもよろしくお付き合い頂けると幸いです(笑)。
<超レア!! 3人の直筆“一筆御礼”>
構成・藤田香織 写真・深野未季
(「CREA」2010年9月号より)
米澤穂信さん×辻村深月×道尾秀介さんの12年ぶりの最新座談会が掲載されている「オール讀物」3・4月合併号の詳細はこちらへ
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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