- 2022.08.26
- インタビュー・対談
ロマンス詐欺、裏口入学勧誘、サロン詐欺……ほんの出来心から一線を越える瞬間とは!?――『噓つきジェンガ』(辻村深月)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
騙す人、騙される人の心理に迫る
「十年前に『鍵のない夢を見る』という短篇集で泥棒、放火、殺人、誘拐などの犯罪を書いた時、詐欺を扱えなかったことが心残りだったんです。今回ようやく題材として向き合えました」
と辻村さんが語る通り、直木賞受賞作の姉妹作ともいえる中篇集だ。詐欺をテーマにした三作が並ぶ。一話目「2020年のロマンス詐欺」はステイ・ホームが叫ばれた頃に構想された。
「日本中が初めて経験する社会状況で、誰かの不安や欲求が爆発したような犯罪が多発し、詐欺被害も増加していると報じられていました」
大学入学に期待を膨らませて上京するも、コロナ禍で休校、友達の一人もできない無為な生活を送る耀太。山形で定食屋を営む両親にやんわり止められ帰省もできない。孤独に耐え兼ね、架空のプロフィールを使って出会った相手とメッセージをやり取りするバイトを始める。それが相手から金を引き出す詐欺への加担だと知った時には、もう引き返せなくなっていて……。
「作中に〈“夢”を見たい〉という言葉がありますが、書きながら、詐欺とは人間の願望や不安を巧妙に組み込む犯罪なのだと気づきました。そうしたら、違う角度からも詐欺事件をもっと書いてみたくなって」
息子の中学受験で裏口入学を示唆された母親の、夫にも隠していた後ろめたさが一本の電話で引きずり出される「五年目の受験詐欺」。人気漫画の原作者が開くサロンに熱心なファンが集うが、あるニュースにより主宰者が苦境に追い込まれる「あの人のサロン詐欺」。どちらの詐欺も、現実に起こりそうな手法、金額設定が絶妙だ。
「自分も騙されそうな、今を反映した手口を考えていく過程で、私自身、こんな状況下になったらどうするだろう、と追いつめられる感覚がありました。サロン詐欺は、もしも自分の名前を騙ったサロンや講演会があったら好奇心から参加してしまいそう。少しの憧れや願いから嘘が積み上がり、崩れる瞬間が描きたかったんです」
加害者も被害者も、笑い飛ばせない切実な望みや悩みを抱えている。犯罪を描く連作でありながら、主人公たちが迎える結末には一抹の光が差す。
「近年、失敗した人を赦さない風潮が強い気がするのですが、だからこそ、話の中にやり直せるまなざしを残したかったんです。善悪で断じきれない、人生の途方もなさを実感する齢になったからかもしれません。でも、十年前のばっさり斬る感性で詐欺を書いたらどんな小説になったのかも興味があるので、いずれそちらの切り口でも、詐欺にはまた挑んでみたいです」
つじむらみづき 1980年山梨県生まれ。2011年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で直木賞、18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。
辻村深月さんの「五年目の受験詐欺」の朗読がこちらからお聴きいただけます
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https://anchor.fm/hon-web/episodes/ep-e1mhb04