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女探偵が歩く街

女探偵が歩く街

若竹 七海

『不穏な眠り』


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『不穏な眠り』(若竹七海 著)

 つまり、晶の身を思う作者の優しい心根が彼女を「不運すぎる女探偵」にしてしまったわけだが、こうなった理由はもう一つあるように思う。私立探偵小説において、時に探偵本人よりも重要なのが舞台となる街だ。探偵が調査の過程で見る景色、その身に受ける風やアスファルトの感触、下水や火薬の臭い、雑踏やクラクション、あおる飲み物……主人公の五感を通して伝わってくるそういった街の描写こそが、私立探偵小説を読む醍醐味であり、読者をして主人公と行動をともにしたいと思わせる肝なのではないだろうか。

 だが晶が歩くのは、主として東京の西部・多摩地域のありふれた住宅街だ。言ってしまえば、ちまちまっとした、ユニークさにも景色の広大さにも欠ける舞台である。物語にダイナミズムを生み出したくても、住宅街には頼れない。となると、やはり、晶にひどい目にあっていただいて……と、なってしまうのだ。

 そんなわけで、葉村晶の不運はもはや必然。最近では作者もストーリーを考える前に、今回はどんな不運にしようかと思い巡らせるようになってしまった。さあ、次はどうしよう。とりあえず、老眼鏡でも買いに行かせようかしら。


若竹七海 (わかたけ・ななみ)
1963年東京生まれ。立教大学文学部卒。1991年「ぼくのミステリな日常」で作家デビュー。2013年「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞〈短編部門〉受賞。2015年「さよならの手口」で〈SRアワード2015〉国内部門を受賞。2016年「静かな炎天」が「このミス」2位、翌年〈SRアワード2017〉国内部門、ファルコン賞受賞。2018年「錆びた滑車」が「このミス」3位。

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文春文庫
不穏な眠り
若竹七海

定価:715円(税込)発売日:2019年12月05日

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