ロングセラーとは、「何代にもわたって読み継がれる名作」か「次々と新作が上梓される息の長いシリーズ」のどちらかだろう。
拙著「女探偵・葉村晶シリーズ」はどちらでもない。前者でないことは言うに及ばず、「次々と新作が上梓され」ていない。なにせ第一長編『悪いうさぎ』から、第二長編『さよならの手口』が出るまでに、十三年もの歳月を要したのだ。
しかし、二〇一四年になんとか復活すると、あっ、こんなシリーズあったね、と間が空いたぶん新鮮に受け止めてもらえたうえ、時間経過を考えれば長生きだ、ということで、ロングセラーにもなってしまった。担当編集者の花田朋子さんがつけた、葉村晶のキャッチフレーズは「仕事はできるが不運すぎる女探偵」だが、こういう顛末を含め、葉村晶はそれほど不運ではないのかもしれない。
思い起こせば、葉村晶が登場した一九九四年は、サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキー、スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンをはじめとする女性私立探偵物が続々と日本に上陸、3Fとも4Fとも言われるブームを巻き起こしていた。私はこのブームにまんまとハマり、自分でも書いてみたいと願っていた。
とはいえ当時の日本社会では、男の私立探偵すらリアリティに欠ける。そこで短編の依頼をいただいたのを機に、ヒロインの職業はフリーターにとどめ、文体はハードボイルド風のクールなものをめざして書いたのが、葉村晶の初登場作「海の底」だ。
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