大友 この小説を読んでいると、川の音が聞こえてくるんです。人間関係のなかにも、メタファーとして「水の音」というのがある。なんとか原作とうまくコミュニケーションがとれるといいなと思いながら作っていたので、沼田さんにいまそう言われてホッとしました。
今回スタッフも岩手出身者が何人かいたのですが、最初にロケハンをしたとき、沼田さんが住まわれている地域をまず集中的に見ました、ストーカーのように。このあたりで釣りをしただろう、とか(笑)。
自分は高校まで盛岡の街中に住んでいましたが、行動半径が非常に狭かった。今回初めて隅々まで見てみて、どこを切り取っても、非常に絵になる街だな、と思いましたね。
沼田 僕は親の転勤で、千葉、埼玉、福岡などを経て、いまは盛岡の郊外に住んで7年くらいになります。岩手の水や空気に触れているなかで、「影裏」という小説が出来ました。「『岩手というところは、じつに樹木が豊富な土地だ』と書きましたけど、これは正に自分が感じたことですね。
渓流釣りもしましたが、それは本当に遊びみたいなもので……。小説のなかの釣りのシーンは、自分が体験したこと、というよりは、人がやっているのを見て書いた感じです。
大友 盛岡市内のいろいろな釣りポイントを見ましたが、めちゃめちゃいいですね、川が。昔は街中を流れる北上川しか見えてなかった(笑)。
支流に沿って森の奥に入っていくと、緑の深さ、原作のなかに書かれているような生き物の気配を感じることができる。こういうところで座敷わらし伝説って、生まれたんじゃないのかな、と思ったりして。そういうことが映画のヒントになりました。人間が亡くなったあと、魂はどこにいくのか、とか。
盛岡の川は僕のイメージをはるかに超えていましたが、それが多分原作に近いイメージ、自分の知らない岩手なんだろう──そう思って撮っていましたね。
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