沼田 小説と映画には、もちろん違うところもあります。でも雰囲気とか詩情のようなものは共通している。全篇を通じて、僕はそう感じました。
主人公の今野(綾野剛)と日浅(松田龍平)、最初浅いところから始まった二人の関係が、深まっていくにつれて、どんどん森の奥まで進んでいく。釣りをするときも、川の水深が浅いところから膝の高さになり、やがて腰のあたりにまで深くなっていくんですよね。
それと、もともと長いショットが好きなので、釣りのシーンが長回しで撮られているのも嬉しかったです。
──大友監督は、これまでもロケなどで全国各地に行かれたと思うのですが、岩手県ならではの特殊性、地域性というものに、今回気づかれましたか。
大友 時間の流れが、東京とはかなり違いますよね。岩手県にある特別な、豊かな時間の流れ、空気感がある。映画でもじっくり構えて撮って、そういう流れが映像から見えるようにしました。
それと、今はツイッターとか、すぐに反射する世の中ですよね。東京にいると140字ですぐに返さないといけないけれど、本当は一回じっくり考えて咀嚼する時間って必要だと思うんです。盛岡では、あまり反射を要求されない。
沼田 僕は、小説でもなんでも、リアクションをあまり気にしないんです。人と話していてすぐ怒る人っているじゃないですか。それを、自分が怒られているとは思わないで、(あー、怒っているなあ)と見てしまうほうで……。
実は、この小説を嫌いな人もいるって、友達が教えてくれたんですが、それも(そうか、どういうところが嫌いなのかな)とは思いますが、畜生! とはならない。そういう自分の淡泊、というか少しよそよそしいところが、小説には出ているかもしれません。
東京は遊ぶのには楽しい場所ですが、そこに住んで小説を書くのは、自分には難しいですね。どこにいても小説は書けますが、「影裏」は岩手にいたからこそ書けたものです。
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