インタビューほか

たった4万石の大野藩は、どのように莫大な借金を返済しながら黒字にしたのか?

「週刊文春」編集部

著者は語る 『わが殿』(畠中 恵)

『わが殿 上』(畠中 恵)
『わが殿 下』(畠中 恵)

「しゃばけ」「まんまこと」など数多くの人気時代小説シリーズを書いてきた畠中恵さんが、新刊『わが殿』を上梓した。意外にも、史実に基づく時代小説の執筆は初めてだという。

「ずいぶん前から編集の方に『史実に基づいた小説を書いてみませんか』と提案をいただいていましたが、これというテーマになかなか出合えなくて。そんなある時、ふと資料を読んでいたら『江戸から明治への移行期に黒字だった藩はほとんどなかった』という旨の記述を目にしました。よい塩田に恵まれていた某藩は、理由がはっきりしていましたが、大野藩はたった4万石の小さな国。盆地ゆえに田畑をろくに切り拓けず、海も飛び地にしかありません。なぜ大野藩が黒字だったのか? 疑問に思い、強く興味を惹かれました」

 舞台は日本海側の越前にあった4万石の大野藩。幕末期、ほとんどの藩が深刻な財政赤字に苦しんでいた。大野藩も例外ではなく、藩主・土井利忠は藩政の立て直しに乗り出す。そこで“借金返済請負人”として登用されたのは、わずか80石というパッとしない家格の内山七郎右衛門だった。ふたりが出会ったのは、殿が15歳、七郎右衛門が19歳のとき。以後、殿は藩校設立、軍隊の西洋化など、次々と改革を断行する。一方で、七郎右衛門は9万両という莫大な借金を返済しながら、たぐいまれなる商才で殿の改革を下支えしていく。

「土井利忠公は大野市では名君として有名で、資料がしっかり残っていたのは、ありがたかったですね。執筆にあたり、その年表を仕事場の壁に貼って、『殿はこういう人だな』とイメージしながら眺めました。すると、七郎右衛門に藩の借金返済を命じた後に、藩校建設のため、すぐにお金を使い始めてしまったことが分かって。天保の飢饉から逃れて真っ先に殿が着手したのが教育でした。第二次大戦後も然りですが、国をもう一度立て直そうとするときは、やはり教育に懸けるんですね。七郎右衛門が銅山の開掘に成功した直後でもありましたから、『殿様大胆!』と思いました」

畠中恵さん

 畠中さんは七郎右衛門に「わが殿は、やはり信長公を思い起こさせる」と語らせている。殿と信長の共通点とは?

「非常に才覚があり、理想に向かって猛進する殿に付いていく周囲の人々は、さぞ大変だったでしょう。そこが信長のイメージと重なりました。ただ、殿は人たらしで、お手紙魔な一面もあって、そこは秀吉似。七郎右衛門に『お前のことはすごく気にかけているよ。子々孫々まで必ず見守るよ』と優しい手紙を書いておきながら、次々と難題をふっかけていくんですよ」

 殿と七郎右衛門の尽力により、大野藩の懐事情は好転していくが、黒船来航により、時代は新たな局面を迎える――。ぜひ財政難に直面する自治体の長にも読んでほしい一冊だ。

「七郎右衛門のように“お金に強い”武士は珍しかったのではないでしょうか。殿と七郎右衛門の努力により、大野藩は、幕末には大国並みの利益を得るようになります。でも、七郎右衛門は、いかに商才があろうとも、最後まで“武士”だったと思うのです」

 大野藩は、七郎右衛門の発案で始めた藩直営の商店・大野屋に藩の支出を払わせている。

「ふつうなら独立採算制にして、大野屋がどれほど儲かっているかをはっきりさせますよね。あくまで藩のためのお金儲けだったのだという感覚が、最後までありました」


はたけなかめぐみ/高知県生まれ。漫画家を経て、2001年『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。同シリーズで16年、吉川英治文庫賞を受賞。「まんまこと」シリーズ、「若様組」シリーズなど著書多数。

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