- 2020.02.13
- 書評
「どんでん返しの帝王」歴代屈指の強烈なラストがあなたを待ち受ける!
文:宇田川 拓也 (ときわ書房本店 文芸書・文庫担当)
『ネメシスの使者』(中山 七里)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
当然、娘を奪われた両家族は判決を不服とし、判事への不信感をマスコミに表明。被害者遺族にとってあまりにも無念極まりないこの裁きは、遺族たちを復讐の鬼に変えることはもちろん、司法に不満を覚える人間を義憤に駆り立て、犯人が正しく罰せられないなら加害者家族に天誅を下そうと考える〈ネメシスの使者〉を生み出してもおかしくはない。
そして今回の〈ネメシス〉事件は、浦和駅通り魔事件の裁判で担当検事になって初めての敗北を覚えた岬恭平次席検事にも早期解決を図るよう命が下り、渡瀬と協力することになるのだが、さらに第二の犠牲者が。これは被害者遺族が蔑ろにされる偏向した司法システムに対するテロなのだろうか……。
本作の数ある美点のなかで、とくにご注目いただきたいふたつを挙げると、まずひとつは、じつに手際よく、被害者遺族、加害者家族、刑事、判事、弁護士、囚人、記者、ネットの声、刑務官、被害者の親友と元恋人等につぎつぎとスポットを当てていく進行だ。ある一面から核心に向けて深く掘り下げていくアプローチもあるが、著者が得意とする終始公平な視点で読み手の前に広く全体像を映し出していくこの手法は、抜群のリーダビリティゆえに見過ごされがちだが、じつは極めて高い筆力と構成力が要求され、誰にでも容易に真似のできることではない。
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