そしてふたつ目は、帝王がこれまで繰り出してきた衝撃のなかでも屈指といえるほど強烈などんでん返しだ。
その瞬間、法の力を超越するほどの人間の底知れぬ怒りと執念とはどのようなものかを、読者は胸に刻みつけられることだろう。しかも驚きは一撃だけで済むとは限らない。もっとも重い罰が死刑であり、無期懲役刑はそれよりも軽い──といった誰もが抱きがちな浅はかな先入観は木端微塵に粉砕される。
渡瀬と岬、それぞれが突きつけられる弁明と真相を、できる限り多くのひとびとに噛み締めていただきたい。そう切に願う。
さて、中山七里といえば、じつは中山一里、二里、三里……そして七里までの計七人による創作集団なのでは? というジョークが飛び出すほどの驚異的な執筆量で知られるが、なんとメモリアルイヤーの二〇二〇年は、一月の『騒がしい楽園』(朝日新聞出版)を皮切りに新作単行本十二か月連続刊行という信じがたい企画をスタートさせている。デビュー作『さよならドビュッシー』(第八回『このミステリーがすごい!』大賞受賞)を上梓してから数年で年四~五冊は当たり前となった刊行ペースも、ついにこの域に達したかと開いた口が塞がらないが、まだまだこれからも中山七里には司法の矛盾や闇に鋭く斬り込んだ作品を手掛けていただきたいものである。