- 2020.02.13
- 書評
「どんでん返しの帝王」歴代屈指の強烈なラストがあなたを待ち受ける!
文:宇田川 拓也 (ときわ書房本店 文芸書・文庫担当)
『ネメシスの使者』(中山 七里)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
物語は、猛暑日が続く八月の朝から幕が上がる。埼玉県警捜査一課で班長を務める警部──渡瀬は、部下の古手川とともに熊谷市佐谷田にある一軒家へと向かう。独り暮らしの六十五歳の女性──戸野原貴美子が何者かに刺し殺され、壁には死体の指先によって記されたと思しき〈ネメシス〉の血文字が残されていたのだ。
ネメシスとはギリシア神話に登場する女神の名前で、人間が働く無礼に対する神の怒りを擬人化したものだといわれる。そもそもは「義憤」を語源とするが、「復讐」と異訳されることもあって“復讐の女神”というイメージがある。
果たして被害者には、犯人がこのような復讐に走るほど強く怨まれる理由があったのか。すると第一発見者である隣家の住人の話から、被害者が十年前に世間を騒がせた通り魔殺人の犯人──軽部亮一の母親であることが判明する。
当時二十六歳の軽部は、浦和駅の改札口近くで十九歳の女子大生と十二歳の少女を隠し持っていた出刃包丁で殺害。大学中退後に引きこもりとなってネットにはまり、県の教育委員会にも名を連ねる著名な教育評論家である父親以上に自らも名を上げるには──と考え、凶行に及んだのだった。身勝手な動機、無抵抗な相手を狙った卑劣な犯行、「殺すのは誰でもよかった」と口にする臆面のなさ、そして父親がワイドショーで重宝されてきたタレントのごとき教育者という境遇は、世間の轟轟(ごうごう)たる非難を巻き起こし、裁判で検察側は死刑を求刑。ところが裁判長を務めた渋沢英一郎判事は意外にも無期懲役の判断を下す。じつはこの渋沢、過去にも死刑か無期懲役かを問われる局面でことごとく死刑を回避しており、皮肉を込めて〈温情判事〉と綽名される人物だった。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。