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万城目学と門井慶喜の「辰野金吾建築散歩」in東京

万城目学と門井慶喜の「辰野金吾建築散歩」in東京

「オール讀物」編集部

ふたりの建築探偵が大建築家の足跡をぶらぶら歩く!

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

(7)国会議事堂【大蔵省臨時議院建築局/1936年/千代田区永田町1-7-1】

万城目 ついに国会議事堂です。

門井 金吾にはどうしても自分の手でつくりたい三大建築がありまして、それが中央銀行、中央停車場(東京駅)、国会議事堂だったわけですけれども……。

三角屋根と正面の巨大な車寄せが国会議事堂の特徴

万城目 前の二つを達成して、いよいよ議事堂! というところで辰野は亡くなってしまうんですね。大正八(1919)年、享年六十六。死因のスペイン風邪というのはインフルエンザですよね。

門井 はい。経緯を簡単にまとめておきますと、当初、議事堂は大蔵省がつくることが決まっていました。大蔵省とパイプが太いのは官僚建築家の帝王、妻木頼黄。金吾の五期後輩で、終生のライバルと言われた人です。通常ならば大蔵省=妻木ラインで設計が進む。そこに金吾が横やりを入れて、「若い才能が育っているから、議事堂はコンペで決めよう」と言いだした。一見、美しい正論に見えますが、コンペになれば必然的に自分が審査にかかわれる。当選作にも手を入れちゃおうと考えたわけです。

万城目 策略家ですなあ……。結局、妻木が先に亡くなって、狙いどおりコンペが行われることになって。

門井 はい。そうして選考会議の途中で、金吾も亡くなってしまうんです。病気なのに無理して会議に出席して、倒れてしまった。その後、やっぱり大蔵省が主導権を握ることになり……。

万城目 大蔵官僚のテクノクラートたちの合作みたいになるんですよね。

門井 妻木頼黄の下で働いていた官僚建築家の矢橋賢吉が中心となって案をまとめました。ただ、矢橋は自分を主張するタイプでなく、誰の不満も出ないよう各方面に配慮した結果、あの鵺のようなデザインの議事堂になったわけです。

「帝國議會議事堂」竣工記念に発売された煙草「チェリー」の箱(門井氏提供)

万城目 辰野がどんな議事堂にしようと考えていたかまでは、わからないままということですか。

門井 記録は残っていません。ただ、私が想像してみるに、もしも金吾が国会議事堂をつくっていたならば……

万城目 読者のみなさん、よく聞いておいてください。門井説ですよ(笑)。

門井 政府から「日本全国の名石を使え」と言われてましたから、赤レンガの入る余地はない。東京駅ではなく日銀をベースに考えていくと、まず議事堂の中央部分、ピラミッド状の三角屋根は、おそらくドームになっていたでしょう。

万城目 おおー。それは納得できる。

門井 真ん中に日銀ふうの緑色のドームを置き、さらに衆院側、参院側、左右それぞれに一つずつ小ドームを置く。

万城目 ドーム、ドーム、ドームと重ねていくんですね。

門井 外壁には全国の花崗岩、安山岩を用いますから色は白。案外いまの国会議事堂と変わらないんじゃないかと思います。問題は、中央手前の車寄せです。

万城目 中央の立方体のようなカチカチッとした四角は、車寄せなんですか。

門井 とにかく大きいし、前に出っ張りすぎですよね。加えて、左右に長いスロープがのびている。完成したのが昭和十一(1936)年ですから、これは自動車の時代の車寄せなんです。しかし、金吾のような明治人の美意識にはフィットしません。馬車や人力車で育った世代だから、車寄せはちいさくてよい。さらに現在の議事堂についてる衆参両院のちいさな車寄せは要らないんじゃないか。真ん中に一つ、天皇陛下のものだけあればよい。そして中心部の、特に一番下の列柱は、もうちょっと目立たない感じで控えめに……

万城目 けっこうリクエストが多いですね(笑)。

門井 私がではありません。金吾がそうするであろうと(笑)。

資料と実際の建築を照らし合わせ、沈思黙考する門井氏

【次ページ 常圓寺:新宿区西新宿7-12-5】

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