インタビューほか

<石田衣良インタビュー>互いに「褒め合う」というサバイバル戦略

「オール讀物」編集部

『清く貧しく美しく』(石田 衣良/新潮社)

<石田衣良インタビュー>互いに「褒め合う」というサバイバル戦略

幸せになることを諦めるな

『清く貧しく美しく』(石田 衣良/新潮社)

 最近、世の中全体がものすごくトゲトゲしていると思います。ネットでは常に誰かが猛烈なバッシングを受けている。そういう時代に人々が仲良くするにはどうしたらいいんだろうと考えたとき、お互いかばい合って生きる恋人たちの物語が生まれました」

 石田衣良さんの新刊『清く貧しく美しく』は、非正規契約社員の堅志(30)とスーパーでパートをする日菜子(28)の物語だ。ふたりは小さなアパートで寄り添い合って暮らす恋人同士。決して豊かではないけれど、穏やかな日々に幸せを感じていた。ふたりの生活を彩るのが、“どんなに些細なことでも、お互いに褒め合う”という約束だ。

「日本人は褒めることが苦手だと思いますけど、恋人同士でも、家庭や職場でも、もっとお互いを褒めた方が良いですよね。そうすれば好循環が生まれてきて、人に優しくなれると思うんです」

 厳しい世の中であっても、ふたりで守りあって生きていけば大丈夫。お互いそう信じていたが、あることをきっかけに生活に変化が訪れる。堅志に正社員登用の話が持ち上がったのだ。

 堅志は学生時代に就職活動で失敗したのを機に、ネット通販大手の倉庫で日々ピッキング作業を続けていた。しかし真面目な勤務態度や、とある人物との縁がきっかけで、将来が大きく開けていく。日菜子は、堅志を応援したい気持ちもある一方、その上昇志向に違和感を感じてしまう。

「日菜子は、むやみに上に行きたがらない、むしろ競争から自ら下りることを選べる子です。これは今の若い子たちにも共通する部分があると思います。経済的に豊かになったところで、幸せになれるとは限らないことを、分かっているのでしょう」

 徐々にすれ違っていくふたり。それぞれに新たな異性の存在もちらつき、恋の行方には目が離せない。一方、堅志と日菜子が、仕事や恋愛以外で心の拠り所となるものを見つけていく姿には、読者が学ぶべき点があるだろう。

「閉塞感のあるこの社会で自分なりの隠れ家、特別なものを持つことはとても大切だと思います。ゲームでも映画でもSNSでもなんだっていい。若い子たちはもう少し自分にとっての幸せはなんなのか、じっくり考えてもいいのではないでしょうか。幸せになることを簡単に諦めてしまっているように見えます」

 石田さん自身の若いころの気持ちを投影しながら書いたという本作。

「自分の立ち位置が分からずに、迷いながら生きている若者の背中をそっと押すような作品になったと思います」


オール讀物3・4月合併号より


いしだいら 一九六〇年、東京都生まれ。一九九七年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。二〇〇三年『4TEEN』で直木賞を受賞した。

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