その世界の中で君の役割がなんであるかわからない。私のように日本の大学の非常勤講師をいくつもかけもちしながら主に日本文学史を教え、好きな古典芸能の劇評や関連図書の書評など書いて細々と暮らしているわけでもあるまい。そもそも異国だ。
女が試した衣装を買ったのかどうか、白い衣服を着た集団はぞろりと歩き出し、君もともにその日暮れどきを思わせる曇り空の下を移動する。君たちはどこへ行こうというのか。いつの間にか、右側は店並みが切れ、白い土壁になっている。
と、正面遠方にいきなり黒い山並みが見えて、ただしそれは薄白い月光のおかげでところどころ灰色に光っている。すっかり日が暮れたのだ。
山の裾野からはメタリックに光る道がうねり進んでいて、それが大河であろうことが君にもわかった。大河はしばらく流れた左の方で、月光で出来た道のようなまた別の光る大河と交わるようだ。
穏やかな丸い山の連なりである。日本なら瀬戸内海から見える山に近いかもしれない。群馬か栃木か東北かとなればこれが明らかに異なり、ごつごつとした峻険な岩影になる。君は自分にわかる知識で周囲を理解しようとする。
ふもとに幾つか灯りがちらついているから人の営みが知れるが、それが君にはむしろ寂しく、たいして歩きもしないのにさっきまで自分がいた賑やかで湿っぽい市場からはずいぶん離れたところへ来てしまったと思う。そもそも街から山まではもっと遠いはずだと君はいぶかしむ。
「汚染の濃さで地図を作ればこうなる」
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