映画人たちの数人がそんなことをささやいて笑ったが、よく聞き取れない。センリョウとか内部被曝という単語も耳に入ってきた。汚染が濃いから山が近いというのなら、自分たちがいるそこの度合いもきっと高いだろう。一体何が起こっているのか。君は会話の意味がわかったふりで笑ってみせ、彼らに背を向けて冷静になろうとする。何もわからずについてきたことを咎められたくない。
そして体を元に振り向け直したとき、目の前が突然崖になっているとわかる。あと数歩進めば真っ逆さまに落ちる位置だ。柵ひとつない。左右を見れば崖に沿った小道を人が往来しているが、とにもかくにも自分がなぜそんな高台にいるかわからず、君は混乱する。
時間など知っても仕方がないがあわてて腕時計を見る。普段持っているはずもない金色のその時計には、しかし文字盤がない。
短針は七時あたりを指している。
よく晴れたこの日、こんな夢も見た。
歯ぐき二ヶ所が腫れていて、それはもう何年もそうなのらしい。左も右も上の方の、犬歯のひとつくらい奥のあたりが舌で触ると明らかにふくれ、先で押すと痛む。前歯の根元もずらりと痛いのはどうしたことだろう。
もちろん何度か歯医者には行っているようで、その度に以前撮った青黒のぼんやりとしたレントゲン写真を見せられ、かぶせた歯の根元に入れた薬が腐っているのかもしれないと言われている。腐っているなら歯を外して歯茎の中を洗浄して欲しいのだが、十数年の付き合いがあるらしき歯医者はそうしない。かぶせた部分がブリッジになっているから、外すのはおおごとであるようだ。
できれば腫れが引くのを待ちたい、と医者は選択の余地を与えるつもりがない感じで常にそう言う。だから君はその度にうなずき、薬をもらって帰ってくる。その繰り返しであるようだ。
この続きは、「文學界」7月号に全文掲載されています。
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