III―1 そして人間
「不自然さ」に導かれて
ジョン・フォードにとっては最初のテクニカラーによる色彩映画となった『モホークの太鼓』(Drums Along the Mohawk, 1939)は、ウォルター・D・エドモンズ Walter D. Edmonds の同名小説(1936)の映画化であり、ウィリアム・フォークナー William Faulkner までが脚色に動員され――作品の冒頭のクレジットにその名は記されていないが――、本来ならヘンリー・キング Henry King 監督が演出を担当するはずだったといういわくつきの作品である。FOX社内の事情があれこれあって、結局のところはフォードがメガフォンを握ることになったのだが、その題名に含まれている「モホーク」とは、現在のニューヨーク州の北部に位置している土地なのだから、これは同じ年に発表された『駅馬車』(Stagecoach, 1939)のような「西部劇」とは異なり、いま成立しようとしている合衆国の東部の原野を舞台とした作品なのであり、むしろ独立戦争の一挿話を題材とした十八世紀の「歴史劇」として分類されるべきものだろう。
もっとも、ロケ地はユタ州のワサッチ・マウンテンズ Wasatch Mountains ――文献によってはさまざまな綴りが見られる――なのだから、そこに西部劇的な雰囲気が立ちこめるのも否めない。実際、ここでロケーションされた『モホークの太鼓』の画面の一部は、十九世紀を舞台としたウィリアム・A・ウェルマン William A. Wellman 監督の西部劇『西部の王者』(Buffalo Bill, 1944)にもストック・ショットとして活用されているという。また、ここにもフォードならではの追跡場面が描かれているのはいうまでもない。ところが、それは、ひとりの白人の入植者がひたすら走りまわり、土着のインディアン三人がそれを執拗に追いまわすというやや長めのシークェンスであり、その筋立てには、奇妙なことにサスペンスというものが徹底して欠けている。逃げるヘンリー・フォンダ Henry Fonda も、追いかけるインディアンたちも、これという火器を持っていないからである。
-
夢七日
-
宿酔島日記
-
ビニールカーテンの美しさよ
2020.06.23特集 -
ジョン・フォード論 第一章-II 樹木
2020.04.07特集