○月○日
夜の十時に尾崎から電話がくる。仕事を終えて電車に乗ったは良いが、混雑にヘキエキして、最寄から二駅離れた土地で降り、そこから帰路を歩いているところだから、暇つぶしの話し相手になってくれ、
――どうせ先輩も暇でしょうから。
と憎まれ口を叩くのに、
――まあ、確かに暇だけど、どうした?
とこちらも応じる。そう、じっさいのところ暇なのだった。どうした? と訊いてはみるが、だいたい彼がなにを言うか予想はついていて、これもじっさい、予想の通りに尾崎は、
――いや、まあ、須藤のことなんですけどね。
と言って話しだす。須藤というのは彼が働く都内にある、携帯電話で遊ぶ所謂「ソシャゲ」を製作する会社の上司で、このところ、と言っても一年近くになるが、平日の夜に電話がかかってくる場合には、ほとんどこの須藤という、顔も見たこともない三十そこそこの男が、いかに職場で問題になっていながら、重要な仕事を任せられているために放置され、そうして放っておかれることが一種その問題行動の追認なり免罪の役割を帯びてしまい、結果としていつまで経っても事が改善されずに――直属の部下である尾崎を苛立たせ、そのフンマンのありったけを、こうして夜の電話で大学時代の先輩であったおれにぶちまけるのが習慣となっているのだった。
――それで、きょうはなに? きょうの須藤さんの行状を言うてごらんよ。
とこちらから話を差し向けつつ、そういえば、家にビールの一本もないことに気がついた。
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