こうした状況の中、2020年春、NHKは衛星放送で「BS1スペシャル　ウイルスVS人類」というシリーズ番組を2本放送した。2本の番組は基本的には前述の2つの方法に対応している。出演者には、専門家の立場から科学的な根拠、歴史的事実に基づいて、何がわかっているのか、わかっていないことに科学者はどう突破口を見出そうとしているのか、さらに将来の見通しについても指摘していただいた。日々、変わる感染状況や対策を追うというのではなく、このウイルスとの長い闘いをどうとらえたらいいのか、視聴者にその普遍性のある視点を見出してほしいというのが企画の意図である。

　本書はその放送内容をまとめ、時間の都合で番組では紹介できなかった内容も含め、議論の全貌をお伝えするものである。

　1本目の放送「未知なる敵と闘うために」に出演していただいた専門家は、今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止の具体的対策を国に提言し指揮している専門家の一人、押谷仁さん、それに気候変動の生態系への影響やヒアリなど外来生物の研究を進めている五箇公一さんである。このときの討議をもとにしたのが本書の第1部である。