- 2020.07.03
- インタビュー・対談
<月村了衛インタビュー>読書感想文「盗作」疑惑が、公立中学校を大混乱の渦に
「オール讀物」編集部
『暗鬼夜行』(月村 了衛)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
SNSで“パクリ”の告発が
ここ数年、様々な切り口から昭和の闇を描いてきた著者が次に作品の舞台に選んだのは、現代の公立中学校だ。
「前作の『欺す衆生』では、普通の人間がどんどん詐欺に染まってゆき、闇に落ちていく様を書きましたが、限られた関係の中で人間を掘り下げていくのが、書いていて面白かったんです。この書き方が自分の資質に合っているという手応えもありました。この方向をさらに突き詰めていくにはどうしたらよいか考えて行き着いたのが、学校という舞台でした」
作家志望だった汐野悠紀夫は、夢を諦めて市立中学校の国語教師となり、文芸部の顧問を務めている。ある日、生徒たちのLINEに一件の投稿が。それは、市の代表に選ばれた文芸部の生徒・藪内三枝子の読書感想文が過去の入選作のパクリだと告発するものだった。三枝子の感想文を指導した汐野は盗作などありえないと否定するが、さらに送信者のわからぬ投稿が続き、汐野はこの件の調査を担当することに。
「この盗作疑惑に、学校の統廃合問題や教育委員会、教師という職がいかに“ブラック”かなど、学校をとりまくいろんな問題を絡めていくと面白そうだとは考えていましたが、実際に切り込んでいくと、想定していた以上でしたね。書いていく筆の先から暗鬼がわらわらと湧いて出てくるようでした」
三枝子が市教育委員会教育長の娘であったことから騒動は保護者にも飛び火し、ネットニュースで取り沙汰されるまでに。告発者が誰なのかも、その狙いが何なのかもわからぬまま、生徒も教師も疑心暗鬼に陥っていく。
「この盗作疑惑は本来なら学校規模で終わっていたはず。でも、今は中学生でもスマホを持っていて、SNSで情報がどんどん拡散するので、問題もやすやすといろんな垣根を越えていく。これが現代の恐ろしさだと思います」
校長や教頭が責任回避に終始し建前だけで対応する中、汐野もまた、自分がうまく立ち回ることだけを考えていた。実は、彼が文芸部の指導に熱心なのは、生徒に向き合うためではなく、まったく別の野心からだった。そんな彼を嘲笑うように問題はさらに大きくなっていき――汐野が抱える闇が読者をも飲み込むようなラストには圧倒されることだろう。
「汐野はどんどん酷い目に遭いますが、自業自得と言えないこともない。それは現代の空虚さであり、汐野という人間が抱える闇でもあります。『山月記』を絡めた構成は初めから意図したものではありませんでしたが、書き進めていくうち、螺旋がぐるぐると絡みつくように、必然的にこの結末を迎えました」
つきむらりょうえ 二〇一三年『機龍警察 暗黒市場』で吉川英治文学新人賞、一五年『コルトM1851残月』で大藪賞、一九年『欺す衆生』で山田風太郎賞受賞。