2015年に『土漠の花』で日本推理作家協会賞を受賞するなど、いま最注目の作家・月村了衛さん。今回の作品は、元公安のシングルマザー・秋来律子(あきらいりつこ)と渋矢美晴(しぶやみはる)が、第2の金大中事件とも言える韓国要人誘拐事件に巻き込まれた子どもたちの奪還に立ち上がる、一気読み必至のエンターテインメントです。
――まさしく月村さんにしか書けない、手に汗握る物語となりました。今作の読みどころは、なんといっても一筋縄ではいかない女性2人の大活躍です。そもそも、なぜ女性2人のバディ物を書こうと思ったのでしょうか。
月村 まず、これまでの自分の作品と差別化をしたいと思ったんです。ありがちなのは女刑事のバディですが、それでは自分ならではの設定とは言えないですよね。ちょうど『槐』という作品で女教師のキャラを書いていて手応えを感じていたこともあり、教師というのはアリかもしれないなと。でも、2人とも教師では面白くない。そこで教師とPTAのお母さんにしたら今までにないコンビになるのではないかと考えました。ただの主婦である律子や教師である美晴が韓国の特殊部隊と戦えるほど強いわけがないですから、主人公に足るキャラクターにするにはどうしたらよいかと苦心して、律子を元公安で今は退職している主婦にするという設定を思いつきました。そうしたら一気に、敵役である韓国特殊部隊のエリートであるキルと戦う動機や、事件の全貌が出て来たんです。母親にとって、我が子を守るためという以上のモチベーションはありませんからね。
――もう1人の主人公である美晴のキャラクター設定にも、ミステリファンなら思わず笑みをこぼさずにはいられない仕掛けが隠されています。これはもはや発明と言っても良いのではないでしょうか。
月村 これは、思いついた瞬間に自分でも笑ってしまいました(笑)。美晴はとある有名な作品のキャラクターを想起させますが、お読みいただければお分かりの通り、まったく別種の個性を持った私独自の人物です。文学史において、そういったファースというかパスティーシュ的なフックは、ことに欧米では小説技巧として中世から存在します。山田風太郎さんなども何度もそういった手法をとられています。作者としては、このちょっとしたギャグを笑ってもらえれば嬉しいですが、分からなくてもまったく問題ない作りになっています。書けば書くほど筆に勢いが出て来て、美晴が思った以上の活躍をしてくれたので、美味しいところを全部持って行ってしまいましたね(笑)。忘れがたいキャラになりました。
――今作はド派手な冒険活劇ですが、のどかな地方都市が舞台です。山でのアクションシーンは月村節が全開ですね。
月村 私の作品は荒唐無稽と言われることもあるのですが、アクションに限らず、すべての点において毎回綿密に取材を行っています。今回も軍事関係やその他の専門家の方にご協力を頂き、皆さんとディスカッションを繰り返しながら、どうやってアイデアをシームレスに繋いで行くか、練りに練りました。読者の中には「そんなことがあるわけない」と思う方もいらっしゃるようですが、設定もアクションも「充分にあり得る」と確信を持ってから書き始めるようにしています。シリアスな状況の中に、リアルでありながらも大胆なアクションが出てくるから面白さが生まれるのですが、バランスが大事なので、そこにはとても気を遣っています。
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