- 2018.10.31
- 書評
荒唐無稽に見える設定をリアルに描く、著者の腕に括目せよ!
文:大矢博子 (書評家)
『ガンルージュ』(月村了衛 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
主婦と女性教師のペアが群馬の温泉ランドで韓国特殊部隊を壊滅させる!
――いやいやいや、待て待て待て。何を言ってるんだ何を。
と、全方位から突っ込んでしまいそうになるこの設定が、月村了衛にかかると手に汗握る迫力満点のノンストップ冒険活劇となるから驚く。あっという間に物語の中に引きずり込まれ、ラストまで一気呵成だ。
これまでも、廻船問屋の番頭が実は裏社会の人間で、あろうことか江戸の町でクールにコルトをぶっ放すというノワール時代小説『コルトM1851残月』(文春文庫)や、同じくコルトを背負った女渡世人の活躍を描く『コルトM1847羽衣』(文藝春秋)、遅々として進まぬ国史編纂に業を煮やした水戸光圀が、原稿督促のため覚さん・介さんをお供に全国の執筆者のもとを回る『水戸黄門 天下の副編集長』(徳間文庫)、女性の産休代用教員が半グレ集団と中国マフィアをひとりで殲滅する『槐』(光文社文庫)などなど、設定だけ聞いたら「待て待て待て」と言わずにはいられない作品を、月村了衛は多く著してきた。ところがどれも読み出したら、「待て」の「ま」くらいでもう熱中してしまう。おまえが待てよ、と自分に突っ込んでしまうほどだ。
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