「きっかけは、月刊誌に書いた1本の原稿でした。小池百合子都知事が誕生し、世間が小池フィーバーに沸く中で編集部から、彼女の生い立ち、とりわけ父親との関係を書いて欲しいと依頼があり調べて短い記事を発表しました。すると、それを読んだという文藝春秋の編集者・衣川理花さんから連絡があり、『単行本として書き下ろして欲しい』という申し出を頂いたのです。でも、私はすぐにお返事ができなかった。というのも、小池百合子という人物を掘り下げて、意味のある本になるか、自信が持てなかったからです。小池氏は、たくさん自著を出版していますが、それらを読んでも国家観や思想、理想といったものが伝わってこない。でも、そのような小池氏が政界で何かと目立っていたことも事実です。ちょうど平成時代が終焉を迎える時期でもあり、小池氏を書くことで、『平成』を振り返り政界と女性という問題を考えることもできるのではないか。そう考えて引き受けました」
と『女帝 小池百合子』を上梓した石井妙子さんは語る。
“カイロ大首席卒業”の才媛TVキャスターを振り出しにして、日本新党、新進党、自民党と渡り歩いてきた小池百合子の半生を描いた本書は、発売と同時に大きな反響を呼び、すでに20万部を超えた。なかでも70年代、カイロ留学時代に小池氏と同居していた早川玲子さん(仮名)の証言は、小池百合子像を覆す衝撃的なものだった。
「早川さんとの出会いは天の計らいだと思っています。彼女は当時の日記や、実家に書き送った手紙、小池さんから譲られた品などを保管していました。私の記事を読んで、他の記者とは違う何かを感じて連絡を下さったのです。その前に早川さんは某新聞社にも、告発の手紙を書き送った。でも、相手にされなかったそうです。私からも返事がなかったなら、証拠の品を全部燃やして諦め、心に蓋をして生きようと考えていたそうです。
早川さんはとても真面目な方で小池氏とは真逆といっていい性格。学歴詐称という小池氏の秘密を知っていたため、政治家として権力を手にした小池氏に恐怖を感じながらカイロでひっそりと生活しておられました。でも、自分には事実を日本国民に伝える義務があると意を決し、私に連絡してきてくれたのです」
都知事選最有力候補の政治家にとって、厳しい内容も含む本書だが、石井さんは暴露本ではないと語る。
「私は、小池氏の実像を追いかけることに徹しました。ノンフィクション作家として、極めてオーソドックスな手法を取っています。本書で利用した資料のほとんどは公刊されているもので、誰でも見る事ができます。それらを精読すれば、小池氏の発言の矛盾や『おかしさ』には気づけるはずなんです。でも、今まで誰も、彼女を取材対象として正面から扱ってこなかった。まともな批判にさらされることなく今に至ってしまったのです。
彼女は私にとって、憧れの対象というわけではありません。でも、まるで沼に引き込まれるように、のめり込んで書きました。
小池さんは『女性であること』『女性のイメージ』を巧みに利用した。『女性』も本書のテーマの一つです。“有能な女性政治家小池百合子”というキャラクターを、小池氏は今も演じ続けています。メディアにはそれを持て囃してきた罪がある。彼女の共犯者です。『小池百合子』を生み出した、日本社会の歪みにも目を向けて欲しいです」
いしいたえこ/1969年、神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。白百合女子大学大学院修士課程修了。2006年『おそめ』が話題に。『原節子の真実』で新潮ドキュメント賞受賞。『日本の天井 時代を変えた「第一号」の女たち』など著書多数。
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