東京都庁に30年以上勤め、都知事のスピーチライター、広報担当トップを務めた元幹部が、実際に見て聞いた、その驚くべき内幕が初めてここで明かされる。『ハダカの東京都庁』の序文を一挙公開!
序 出る杭(くい)はぶった切られた ~クビ宣告顚末(てんまつ)記~
都庁は、外からはうかがい知れない巨大な伏魔殿(ふくまでん)である。
ネットで公開されている情報や記者会見での知事発言だけでは、肝心の部分はほとんど見えてこない。「実際のところ、本当はどうなのよ?」と疑問を抱いても、まともに答えてくれる人間は誰もいない。
国であれば、良くも悪くも一部のキャリア官僚がドロップアウトして、内部のどろどろした情報を明かし政権批判を繰り広げたり、政治ジャーナリストのコメントもあるが、都庁の場合、そうしたことは皆無(かいむ)に等しい。
なぜか。
一つには地方公務員法で守秘義務が課せられ、退職後も縛(しば)りが掛かっているせいもあるが、守秘義務は国家公務員も同様であるし、「業務上知りえた秘密の守秘」よりも、都民の知る権利、公益に資する情報の開示のほうが優先されることは論をまたない。
それでも都庁の現役職員や幹部OBらがこぞって口をつぐむ理由は、定年退職後の生活を牛耳(ぎゅうじ)られているからだ。特に局長級や本庁の枢要(すうよう)部長級の職員は、暗黙裡(り)に65歳までの生活が保障されている。もちろん、そのほかの一般職員は再任用などの制度によって65歳まで働き続けることができるが、幹部職員にはいわゆる外郭団体でのポストが約束されている。
だから、静かに物言わぬ老後を過ごすのだ。ひとたび沈黙のルールに背(そむ)けば収入の道が絶たれる。言いたいことがあっても口を閉ざすことが、退職後を何不自由なく生きるための絶対条件なのである。
そんな人事の掟(おきて)を破り外郭団体での余生を棒に振ったアホが現れた。2020(令和2)年3月、一冊の本が出版された。『築地と豊洲 「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)である。この本によって自らの暗部をえぐり出された小池百合子知事は激怒した。実際、都庁では発禁本のような扱いを受けた。
筆者は出版だけでは満足せず、その後、週刊誌の誌面に登場するなど、小池都政への批判的な発言を繰り返した。結果、1年前に定年退職して与えられたある外郭団体の理事長職を、本の出版からわずか4か月後の7月末に解任された。
理由は、局長級経験者が備えるべき「常識」を逸脱しているという摩訶(まか)不思議なものだった。解任直前の7月初旬、筆者は都庁に呼び出された。西新宿の都庁第一本庁舎6階の副知事室、幹部人事を取り仕切る副知事から「おまえは常識がない」と告げられたのである。
正直、呆(あき)れた。都庁も狭量になったものだと哀(あわ)れみさえ感じた。都庁村の掟を破った不届き者は村八分にされて当然ということらしい。加えて、小池知事の行動原理の一つである「裏切り者は絶対に許さない」という、あの氷のように冷たい姿勢が適用された結果でもあった。
それにしても、おまえは守秘義務違反を犯した犯罪者だとか、小池都政批判はOBであってもまかりならぬとか、ストレートに宣告されたほうがよほどさばさばしたのだが、「非常識なヤツだから辞めてもらう」とはこれ如何(いか)に。都庁OBの常識って何なんですか、なんならA4ペーパー1枚にまとめてくださいよ、と悪態をついても始まらないので未練なく辞めた。
辞めた以上は、都庁の常識とやらに気兼ねすることなく自由に発言できる。出版・解任をきっかけに獲得したこの立場をフル活用して、普段は垣間見ることのできない都庁の実態を、もの言わぬ現任職員と都庁OBに代わって、少しでも明らかにできればと思っている。
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