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ウィズ・コロナ時代の伝統芸能(1)柳家喬太郎(落語)

ウィズ・コロナ時代の伝統芸能(1)柳家喬太郎(落語)

聞き手:生島 淳

オール讀物8月号

出典 : #オール讀物

 しかし、六月六日土曜日、変化が訪れる。五月二日、三日に続き、文藝春秋のビルから「文春落語」というタイトルで全国にオンライン配信をしたのだが、観客のいない席を見て、気持ちが吹っ切れたのだ。

「無観客ってどうなのかな? と思っていたんですよ。ところが、誰もいないってことは、無自覚の陽性者もいないってことです。がらーんとした客席を見て、ああ、なんにも気にしなくていいんだと思ったら、解放感がありました。やっちゃえ、やっちゃえ、なに喋ってもいいんだと思ったら止まらなくなり、マクラがやたらと長くなって、時間が延びちゃった(笑)」

 紀尾井町の文藝春秋から、次はトリを勤める新宿末廣亭へ。その夜は、東京には雷を伴う激しい雨が降っていた。

「その日は怪談の『牡丹灯籠』をかけました。雨が降っていてちょうどいいかなと思ったんです。そのあたり、私はあざといんで(笑)。『牡丹灯籠』のなにがいいかって、お客さまを笑わせずに済むことです。私は、それで安心できた」

 もちろん、寄席は笑いを求めて足を運ぶ人も多いから、毎日が怪談というわけにはいかない。しかし、喬太郎はこの日、無観客で解放感を味わい、雨の降る夜に怪談話をかけて、精神の安定を感じた。

 七月を迎え、ホール落語もぼちぼち再開しているが、喬太郎はオンライン落語を続けている。

「興行主の人たちは大変です。良かれと思って、夏場の落語会を春先に売り出して完売と喜んでいたら、客席を半分にしなくちゃいけなくなって払い戻しですよ。すべての席を発売しても構わないとなっても、果たしてお客さまは以前のように戻って来てくれるのか。元に戻るには時間が必要でしょう。そう考えると、オンラインは並行して残るんじゃないですかね。あくまでひとつの形式ですけど。少なくとも今回、僕は落語をやらないことには気持ちが持たなかった、というのが配信落語を始めたきっかけのひとつです。そのうち、『アイツの落語はオンラインだといいんだけどな』というような“配信名人”が出てくるかもしれない。客席にお客さまがいると力を発揮できない落語家は困ったものですけど(笑)」

 春、桜が咲いた時期には仕事がどんどん中止になっていくという厳しい現実も経験した。こんな世の中になって、落語家としてどう生きていくのか考える時間もあった。

「パニック映画の中に放り込まれたみたいでしょ。でも、映画とは違っていつ終わるかは分からない。新しい生活様式って、お上の言うことはごもっともですけど、こうなったら、やけくその前向きでいこうかと考えたりもする。びくびくしながらでもいいから、とりあえず、前に進んでいきますかね」


(オール讀物8月号より)


8月にも柳家喬太郎師匠の文春落語が開催されます。
公演日は8月15日、16日のお盆休み。
夏真っ盛り、ということで、今月のお題は「怪談」です。
師匠曰く「1日目はライトに、そして2日目はヘビーでいきましょう」とのこと。
「怪談で涼をとる」日本の夏を、オンラインでお楽しみいただけます。

8/15(ライト怪談)14:00-
https://bit.ly/39RxyKs(チケットぴあ)
https://bunshunrakugo9.peatix.com

8/16(ヘビー怪談)14:00-
https://bit.ly/3k8fJv5(チケットぴあ)
https://bunshunrakugo10.peatix.com

ともに、公演翌日より1週間有効のアーカイブ視聴が可能です。

 

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