インタビューほか

ウィズ・コロナ時代の伝統芸能(5)豊竹呂太夫(文楽)

聞き手: 生島 淳

オール讀物8月号

ウィズ・コロナ時代の伝統芸能(5)豊竹呂太夫(文楽)

柳家喬太郎、玉川奈々福、ナイツ、神田伯山、豊竹呂太夫。
トップランナーたちが語る自身の現在地と今後への決意――。

豊竹呂太夫(文楽)

 文楽の太夫、豊竹呂太夫は三月十五日を最後に舞台から遠ざかっていた。復帰したのは六月一日、大阪の山本能楽堂で行われた「亥々会(いいかい)」主催の「息吹の寿(ことほ)ぎ」だった。この会は、歌舞伎俳優の中村鴈治郎と、女優、演出家でもあるわかぎゑふが中心となって、上方の芸能が一堂に会する場となった。各々十分ほどの短い舞台だったが、呂太夫は四月、五月の本公演で上演予定だった「義経千本桜」と、シューベルトの「魔王」(新作)の一部を披露、登場前には久しぶりに緊張を覚えたという。

「わずか十分ほどの舞台でしたけど、身震いしましたわ。ふだんの舞台では緊張するのは当たり前。でも、身震いしたんは、初舞台以来と違いますかね」

 文楽の世界で生きる人たちは、ひと月ごとに大阪、東京、地方を回っていくのが生活の基本。呂太夫の場合、一年に二カ月ほど本公演がない月があるものの、一年中いそがしい日々が続く。

「公演の最中に、翌月の稽古が始まりますんで、ずっと余裕がない状態です。それが新型コロナウイルス禍のおかげで、なんにもなくなってね。外に出て食事をすることも出来ませんでしたし、家で三食しっかり食べて、ゆっくり寝て、ものすごく健康的な生活になって。文楽の世界に入って五十年以上になりますが、こんなに時間が出来たのは初めてのことです」

 当初、困ったのは稽古だ。呂太夫には男性三人、女性四人の弟子がおり、その他に素人衆が三十人ほどいるのだが、対面での稽古が出来なくなってしまった。そこで女性の弟子が「Zoom」を使った稽古を提案してきた。

「コロナが感染拡大する前は、Zoomなんてまったく知りませんでした。ところが使ってみると、これが稽古するのにもってこいだと気づいたんです」

 通常、文楽の太夫の稽古は三味線を交えた三人で行われる。しかし、Zoomで三味線を加えるわけにもいかず、画面を通して呂太夫と弟子が一対一で向き合うことになった。

「師匠が扇子で拍子を取りながら、三味線なしで節と詞を教えることを文楽では『叩き稽古』と言います。叩きはね、一対一ですから教える方も、教わる方もしんどいんです。せやから、普通は三味線弾きさんと一緒に稽古します。でも、稽古が始まって太夫が弟子を教えるのにいちいち止めてたら、三味線弾きさんに申し訳ない。だから、ある程度進めて、特に気になったところを教えていくスタイルです。時間も限られてますし、どうしてもアバウトになってしまうところがあるんですが、Zoomだと一対一だから細かいところまで逐一教えられる。教える方もつい面白くなってきてね(笑)」


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