柳家喬太郎、玉川奈々福、ナイツ、神田伯山、豊竹呂太夫。
トップランナーたちが語る自身の現在地と今後への決意――。
玉川奈々福(浪曲)
喬太郎と一座することも多い浪曲師の玉川奈々福にとって、新型コロナウイルス禍のニュースが飛び交っていた春先は、母の看病をする時期と重なった。
「母が入院したのは三月中旬のことでした。三月は寄席も少なくなっていった時期でしたが、正直、母のことに気持ちを割けるのは助かりましたね。ただ、院内感染の心配があるので、面会は全面禁止。でも、私には耐えられなくて。病院のロビーで母の車いすにすがりつき、あたりかまわず号泣していたんです。そしたら、主治医の先生が『一日十分まででしたら……』と面会を認めて下さったんです。浪曲師の感情表出には、ものすごい効果があったようです(笑)」
奈々福の独演会の木戸番も勤めていた母が亡くなったのは四月十四日のこと。東京に緊急事態宣言が発出されてから一週間が経っていた。
「コロナウイルス禍で仕事がなくなったことで、母との時間を過ごせたのは良かったと思います。それに、このような情勢で浪曲師に何が出来るのか、それを考える時間がありました」
奈々福は動きだす。単行本の執筆に精を出し、ライブ配信にも乗り出した。
「四月以降、落語界では喬太郎師匠をはじめ、春風亭一之輔師匠が十日連続で寄席のトリと同じ時間に配信を行って、話題になっていました。私のところにも、以前から『配信をやってみませんか』というお話はいただいていたんですが、浪曲はリモートには向かないのでは? と考えていました。落語は都会の知的な芸能で、多くの名人の映像も残っています。映像でも落語の魅力は伝わるんです。そこへ行くと、浪曲はフィジカルな芸能です。お客さまに声の快楽をライブで味わっていただくものであり、オンラインではその魅力が減じてしまうのではないかという不安が強く、なかなか乗り出せないでいました。ただ、講談では神田伯山さんという巨大な発信源があって、『伯山ティービィー』を基地として、講談の魅力を伝えている。浪曲も発信しなければ埋もれてしまうのではないか、という危機感もありました。そこで再考した結果、配信を通して浪曲の持つ物語のカタルシスに浸っていただこうと考えたんです」
六月十日に東京・代官山のライブハウスから配信を行うと、同じ時期にはホームグラウンドともいうべき浅草木馬亭も再開、七月になると公演の回数も増えてきたが、奈々福にとって心配の種は八十三歳になる曲師、沢村豊子のことだ。
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