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遅れていたはずの国が、一気に先進国を跳び越える。これが「リープフロッグ(蛙跳び)」だ!

遅れていたはずの国が、一気に先進国を跳び越える。これが「リープフロッグ(蛙跳び)」だ!

野口 悠紀雄

『リープフロッグ』(野口 悠紀雄)

出典 : #文春新書
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

『リープフロッグ』(野口 悠紀雄)

「リープフロッグ」とは、蛙跳びのことです。

 蛙が跳躍して何かを飛び越えるように、それまで遅れていた国が、ある時、急激に発展し、先を行く国を飛び越えて、世界の先頭に躍り出る。そして世界を牽引するのです。

 中国の躍進ぶりが注目を集めています。これまでのように安い労働力で安い工業製品を大量に生産するだけでなく、AI(人工知能)などの新しい技術を駆使して様々な経済活動を始めているのです。そして、アメリカと覇権国の地位を争うまでになっています。

 ところが、目覚ましい発展の背景を調べると、そのほとんどがリープフロッグで説明できるのです。「遅れていたことを逆手に取った」ということができますし、「失敗したから成功した」ということもできます。歴史を見ると、こうしたケースが数多く見られます。聖書に「後なるもの先になるべし」とあります(『マタイ伝』、第19章30)。この言葉は、その後の歴史の展開を予言していたと思われるほどです。

「リープフロッグ」は、歴史のダイナミズムを包括的に説明しようとするマクロ歴史理論の一つです。段階的な発展論と対照的な考えです。「キャッチアップ論」と似たところがありますが、先進国に追いつくだけでなく、逆転するとしているところが重要です。

「遅れている者が逆転する」というのは常識に反することで、なぜそうしたことが起きるかは、純粋な知的好奇心の観点からも興味があるところです。それだけでなく、現実的な意味もあります。「遅れている者が不利な条件から逃れられず、貧困の罠に囚われる」というのでは、救いがありません。しかし逆転があるなら、望みがあります。

 本書を書いたのも、そうした可能性にすがりたいからです。具体的には、「あまりに著しい日本の落ち込みぶりを何とかできないか」という願いです。

 この状態に対処するには、リープフロッグによって遅れを一挙に取り戻すしか方法がないと考えたのです。それなら、リープフロッグが生じる条件を調べる必要があります。

 本書の構成はつぎのとおりです。

 第1章では中国の最近の状況を見ます。中国では、eコマース(電子商取引)が成長し、電子マネーによるキャッシュレス化が進んでいます。AIによる顔認証機能を利用した決済も導入され、無人店舗が広がっています。また、電子マネーの利用履歴から得られるデータを利用した信用スコアリングなどの新しいサービスも始まっています。

 このように、最先端分野において目覚ましい発展が生じています。固定電話が普及していなかったために、新しい通信手段であるインターネットやスマートフォンが急速に普及し、それがこのような発展をもたらしたのです。つまり、中国の急成長は、「リープフロッグ」なのです。リープフロッグ現象は、これまでも歴史のさまざまな場面で見られました。しかし、これほど大規模に起きたのは初めてのことです。

文春新書
リープフロッグ
逆転勝ちの経済学
野口悠紀雄

定価:990円(税込)発売日:2020年12月17日

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