- 2021.02.22
- インタビュー・対談
婚活で知り合った男性が次々と不審死を遂げた女の正体――『傍聴者』(折原 一)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
炸裂する折原マジックに唖然、呆然!
松山ホステス殺害(『逃亡者』)、東電OL殺人事件(『追悼者』)など、実際の事件にヒントをえて本格ミステリを構築していく折原さんの「〇〇者」。
シリーズ六年ぶりの新作は、三十代女が婚活で知り合った男性を練炭自殺に見せかけ次々に殺害した「首都圏連続不審死事件」に着想をえたものだ。
「九〇年代までは福田和子、東電OLなど、個性の強い事件関係者が多くいましたよね。でも、ここ二十年、なかなか興味をもてる事件がなく、シリーズを続けるのは難しいなと思っていたところに、この事件が発覚しました。
練炭による連続殺人だけだと雰囲気が重くなっちゃうけれど、犯人はブログに料理写真をアップしてたり、拘置所から小説を発表したり、人間くさくて、読者が感情移入する余地があります。また、どうしてあれだけの数の男たちが次々彼女にのめり込んでいったのか? という謎にも惹かれました。
実際の裁判を傍聴した記者によると、最初『なんでこんな女が?』と思っていても、法廷で被告人の鈴を転がすような高い声を聞くうちに『一回くらい付き合ってもいいかな』なんて思っちゃうそうです。プロのジャーナリストもハマっていく彼女の謎めいた怖さを、ミステリとして描いたら面白くなるだろうと考えたのです」
物語は、被告人・牧村花音(かのん)が被害者たちとのセックスを赤裸々に語る法廷場面、裁判を傍聴する四人の女性グループによる感想戦、また親友の死の真相を探るため花音に近づき取材したフリーライターが残した手記――の三部構成で進んでいく。
「事件をどう料理すれば小説にできるか悩んでいたのですが、十年くらい前、裁判傍聴のブームがあって、女の子四人組の『霞っ子クラブ』というグループが面白い傍聴記を書いていたんです。裁判の知識が豊富な上に、法廷のおかしなところにどんどんツッコミを入れていく文章がユニークで、彼女たちをモデルに、事件の裁判を傍聴してはキャッキャと騒ぐ女性たちのグループを絡めようと思いついて、『傍聴者』の構想が固まっていきました」
作中のフリーライターが、親友の死に疑問を抱き、合コンに潜入して亡き友の婚約者だった牧村花音を探しだすプロセス、花音の生まれ故郷を訪ねて家族関係に迫っていくくだりなどは実にリアル。どんでん返しの果てに明らかになる驚くべき結末には、「実際の事件の真相もこうだったら凄いな」と感じてしまうほどの衝撃がある。
「現実の事件を下敷きにはしているけれど、あくまでフィクション。謎解きを楽しんでもらえたら嬉しいです」
おりはらいち 一九八八年『五つの棺』(『七つの棺』と改題し文庫化)でデビュー。九五年『沈黙の教室』で日本推理作家協会賞。「〇〇者」シリーズは累計六五万部を突破。