- 2021.02.24
- インタビュー・対談
全財産は自分を殺した犯人に譲る!? 前代未聞の遺言状――『元彼の遺言状』(新川 帆立)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
予定調和を裏切り続ける怒濤の展開
「普通、犯人は捕まらないようにトリックなどを用いて隠ぺいを図りますが、その常識の逆を目指すことで新たなミステリーを作ることができるんじゃないかと考えました」
二十八歳の弁護士・剣持麗子は、学生時代に数カ月付き合っていた森川栄治がインフルエンザの悪化により亡くなったことを知らされる。栄治は大手製薬会社・森川製薬の御曹司で莫大な資産を保有しており、「全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という、前代未聞の遺言状を残していた。麗子は、栄治が亡くなる一週間前に、インフルエンザが治りたての状態で会ったという篠田の依頼を受け、篠田が犯人であることを立証することに――。
「遺言状の内容は、『ポトラッチ』という概念を知ったことで思い浮かびました。日本語に訳すと『競争的贈与』という考え方で、プレゼントを与えることで相手を攻撃するものです。たとえば年賀状でもこちらが送っていないのにいただいてしまうと、罪悪感を持ってしまいますよね。遺産を貰えることは本来嬉しいはずですが、あまりにも多くのものを受け取らせることで心理的に復讐することが可能になるんです。法律ものは難しく感じる方もいるかもしれませんが、私自身が現役の弁護士なので、法律に関するリアリティーはギリギリ担保しつつ(笑)、いかに楽しく読んでもらえるかを意識して書きました。そのため、登場人物も少しコメディタッチで描いています」
その言葉通り、篠田が犯人であることを、森川製薬内でプレゼンする「犯人選考会」や、その後に巻き起こるある事件など、ページをめくる手を止めさせない仕掛けが随所にちりばめられている。
「原稿用紙約二十枚分書き進めるごとに、予定調和にならないような展開を入れるようにしていました。序盤だと、麗子がある理由で一度は篠田からの依頼を断わりますし、他にも『犯人選考会』では華麗な推理が展開されると多くの読者は想像するでしょうが、あえて少し変わった展開にしてみたり。自分自身が飽きっぽい読者なこともあり、こんな小説を読んでみたいという思いを反映させています」
デビューしたばかりだが、早くも今後の構想も用意している。
「過去に『このミステリーがすごい!』大賞にファンタジー色の強い作品で応募したことがあるんです(笑)。なので、書きたいジャンルはたくさんありますが、次作は『元彼の遺言状』の続編の予定です。まずは同世代の女性が登場する小説を執筆しながら、書けるものを増やしていきたいですね」
しんかわほたて 一九九一年アメリカ合衆国テキサス州出身。東京大学法学部卒業。昨年、第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。本作がデビュー作になる。
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