- 2020.12.28
- インタビュー・対談
冬休みの読書ガイドに! 2020年の傑作ミステリーはこれだ!【国内編】 <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2020年の傑作をおすすめします。
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
司会 大ベテランから新鋭まで、大長編から短編集まで、2020年もたくさんの傑作、話題作がミステリー界を賑わせました。ふだんミステリーを担当している編集者が集まり、文春のイチオシ作品も織り交ぜつつ、2020年の必読おすすめミステリーをふりかえっていく座談会です。
参加者は、文庫編集部のAさん(『葉桜の季節に君を想うということ』『隻眼の少女』など担当。最愛の1作は『虚無への供物』)、翻訳ミステリー担当部長のNさん(文春初の大学ミス研出身者。海外ミステリー一筋20年。最愛の1作はJ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』)、単行本担当のTさん(新本格好き。最愛の1作は綾辻行人『十角館の殺人』)、別冊文藝春秋のKさん(雑食。最愛の1作は連城三紀彦『戻り川心中』)。司会はオール讀物のI(文春2人目の大学推理研出身者。最愛の1作は島田荘司『北の夕鶴2/3の殺人』)が務めます。では、国内作品から見ていきましょう。
【国内編】
司会 今年は辻真先さんの『たかが殺人じゃないか』(東京創元社)が高評価を集め、「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」で3冠に輝きました。
T 作中で、密室殺人、バラバラ殺人、と2つの事件が起こるんですけれども、島田荘司さんの作品を彷彿とさせるような大胆な物理トリックが使われていてビックリしました。いまこんな力業のできる作家はなかなかいません。加えて、舞台の面白さですよね。昭和24年は、学制改革によって旧制中学が新制の高等学校に切り替わった年。前年に中学5年生だった男子、高等女学校5年生だった女子たちが、名古屋市内に新たにできた新制高校の3学年に編入して、最後の1年間だけクラスメイトになるという、とてもユニークな状況設定なんです。
司会 ちょうど制度変更のはざまにいた17歳の子たちの物語なんですね。辻さんご本人が1932年生まれで、やはり昭和24年に新制高校3年に編入したと本の帯に書かれています。
T ポイントは、それまで男子校、女子校と分かれているのが当たり前だったところ、一斉に共学に変わって男女一緒のクラスになることなんです。バンカラな完全にホモソーシャルな世界で生きてきた男子の中に、突然、女子という異物が入りこんでくる。新たな環境に適応して女子とも自然に接することのできる進歩的な男子もいるし、逆にバンカラを引きずって差別的な言辞を吐くことでしか女子とコミュニケーションが取れない男の子もいる。でも、心の中では男女仲良くしているグループがすごく妬ましい……そういう心情がうまく描かれて、17歳の子たちの見事な青春小説になっているし、また、男女が一緒になったことの葛藤や軋轢が事件を引き起こす原因にもなっていくんです。
さらに、女の子たちそれぞれのバックボーンがみんな違っていて、特に主人公の男子がほのかに思いを寄せる女子が戦争の暗い影を引きずっているのも読みどころですね。彼女のバックボーンを現在の視点から読むと、ただ悲惨というほかない可哀想な境遇なんです。ところが辻さんは、ご自身が実際に経験した強みなのか、彼女たちをかなりドライな筆致で描いていく。悲劇的な境遇にある女の子も、強くたくましいキャラとして造型されていて、読んでいて気持ちいいんです。
司会 時代設定がうまく機能していることに加え、ミステリーの技術力もきわめて高い作品なんですよね。ネタに関わるので詳しくは言えませんけれど、17歳の主人公、風早勝利くん(この名前も昭和ヒト桁っぽい!)は推理小説研究部の部員で、作家志望で、作中でもミステリーを書いている。途中、この勝利くんからの「読者への質問状」が挿入されるなど、最終的に本書は、「勝利くんが書きあげた作品」という読み方もできる構造になっています。この見せ方が非常にうまい。
N 冒頭で「読者が犯人」と高らかに謳った最初期の『仮題・中学殺人事件』以来、辻さんの作品には、メタミステリー的趣向が凝らされた傑作が多いですが、本書もその流れの中にあるといえるんじゃないでしょうか。
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