本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
なりたい自分になれず悩む人へ贈る一冊――『料理なんて愛なんて』(佐々木 愛)

なりたい自分になれず悩む人へ贈る一冊――『料理なんて愛なんて』(佐々木 愛)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

料理小説に疎外感を抱く人へ
『料理なんて愛なんて』(佐々木 愛)

 バレンタイン当日、優花は、恋人の真島にデパ地下で買った高級チョコを渡すが、「好きな人から手作りチョコをもらったから」とフラれてしまう。以前から「好きなタイプは料理上手な人」と言っていた彼の本命の相手は、料理教室の先生だった。

 短編集『プルースト効果の実験と結果』で思春期の焦りや切ない恋愛を描いて話題となった著者。初の長編小説は、"どうしても料理が上手になれない女性"が主人公だ。

 失恋をきっかけに料理ができるようになろうと一念発起する優花だが、簡単な自炊にもすぐに挫折。上手になるどころか、自分が料理嫌いなことを再認識してしまう。果たして、優花は料理を好きになれるのか。

「私もこの主人公ほどではないにせよ料理が苦手です。美味しそうな料理描写がある小説は好きですし、読むたび心が温まったり癒されたり、お腹も空いてきますが、同時に、料理が苦手な登場人物が途中から上達し始めたり料理を好きになり始めると、寂しくなってくるんです。私のように料理小説に疎外感を抱いてしまう人にも読んでもらえる小説を書きたいと思いました」

 料理に苦戦しつつ、料理男子と合コンしたり、行きつけの店の料理人に思いを寄せられたり。迷走しながらも、料理と恋に奮闘する優花。同時に、「料理は愛情」という言葉に対して「愛情と食を結び付けたくない」とも考える。

「愛する人に手料理を作りたい、そう思うのが当然、という一部での風潮にショックを受けた時期があったので、この主人公には『そういう風潮に流されず頑張ってくれ』と思っていました。一方で、書きながら私自身料理に対して固定観念を持っていたことにも気づいたので、それを取り除きつつ進めていきました」

 真島は、優花の友人から「全然いい男じゃない。友達にもなりたくない」と言われるような男で一見飄々としているが、彼もまた人知れずままならない自意識を抱えている。優花の職場の同僚・坂間も「人間を好きになりたいけど他人が苦手」というコンプレックスを持っている。

「優花が料理を好きになれないように、彼らも、"常識"とされているものが苦手な人たちです。でも皆、ただ“嫌い”でいるのではなく、"好きになりたい"という気持ちを持っている。だからこそ厄介なのですが、そのぶん、愛おしくも感じています」

 果たして、優花の思いの行き着く先は――。料理が苦手な人だけでなく、なりたい自分になれずに悩む全ての人に贈る一冊だ。


ささきあい 一九八六年生まれ。秋田県出身。青山学院大学文学部卒。「ひどい句点」で二〇一六年オール讀物新人賞を受賞しデビュー。著書に『プルースト効果の実験と結果』。


(「オール讀物」3・4月合併号より)

単行本
料理なんて愛なんて
佐々木愛

定価:1,760円(税込)発売日:2021年01月27日

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る