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昭和初期の女学生の友情が行き着いたのは――『花は散っても』(坂井 希久子)

昭和初期の女学生の友情が行き着いたのは――『花は散っても』(坂井 希久子)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

祖母の遺した美少女の写真の謎とは
『花は散っても』(坂井 希久子)

 坂井希久子さんの新作は、昭和初期の女性たちと、現代を生きる女性の姿を交互に描く書き下ろし長篇だ。

 アンティーク着物のネットショップを営む美佐は、夫と別居中の三十九歳の女性。ある日、実家の蔵で、亡くなった祖母・咲子の遺した銘仙と三冊のノート、そして美しい少女が写った古い写真を見つける。銘仙は祖母のものにしては小さく、少女も見たことのない人物であった。美佐は、ノートに記された咲子の手記から、銘仙と写真の少女の謎に迫る。

「本作は、もともとは谷崎潤一郎の没後五十年に合わせて書くはずだったものなんです。私は谷崎潤一郎で卒論を書いたこともあって、そのオマージュを込めました」

 写真の少女は、咲子が養女として引き取られた川端家の実子・龍子だった。同い年の彼女に、咲子は強い忠誠心と愛情をもつ。

「昭和初期の女学生独特の『エス』という関係性や、そのなかで崇拝される対象としての龍子――概念的な美少女の存在感を描きたかったんです」

 手記の中で、龍子へ愛情を注ぐ咲子の心のうちがつづられる一方で、現代を生きる美佐は、不妊治療がうまくいかず、夫とも不仲のままだ。

「今回、下敷きにしたのは谷崎の『蘆刈』と『吉野葛』です。一種の母恋もので、母親がテーマでもあります。母親になろうとしてなれなかった美佐の苦しみは、現代女性の抱えるしんどさの一つだと思います」

 美佐は、厳しい現実を生きながらも、祖母の手記を読み進め、銘仙に込められた意味を解く。古い着物を前にした美佐の姿は、自身も着物を好む坂井さんならではの描写が光る。

「着物について書いているときは、どうコーディネートしたらいいかを考えたりして、とても楽しかったです」

 美佐の祖父である英雄も手記に登場し、彼の龍子への思慕が咲子の目を通して語られるが、高等女学科を卒業した龍子は、別の人物と結婚する。咲子の龍子への愛情は深いままであったが、その関係は次第に変わっていく。そして、美佐も、夫との生活について結論を出すべき時期を迎える。

「男女の別なく、好きな人のそばにいられるのが理想だと思うんですが、咲子の時代は社会がそれを許さなかった。それでも、その術を探した咲子の姿に、オマージュとは別に私なりのメッセージも込めたくて。ラストシーンは、どうしても書きたかったものが書けました。読み終えて、ふっと息をつくような、心に強く残るものになっていたらいいですね」


さかいきくこ 一九七七年和歌山県生まれ。二〇〇八年「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。著書に『妻の終活』『17歳のうた』「居酒屋ぜんや」シリーズなど。


(「オール讀物」3・4月合併号より)

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