町名主の跡取り息子の縁談の行方
江戸の町名主の跡取り息子・麻之助が、次々と持ち込まれる相談事を解決する「まんまこと」シリーズの待望の最新作。一篇目の「こたえなし」では、富くじにあたった三人の男たちから、当選金で行くはずだった旅先を決めるよう頼まれ、麻之助は料理屋の娘・お雪とともに解決の道筋を探る。二人には縁談があったが、お雪は事故で記憶を失っていた。そのために破談になったと思った麻之助だが、お雪ははっきり答えを出せずにいた。
「お雪さんとは、紆余曲折があって、なかなかまとまる方向にいかなくて。このままではまとまらないだろうという気持ちが、本人にも周りにもあったんですよね。私自身もふたりの関係がどうなるかは最初から決めていたわけではなく、書いていくうちに意外な流れになりました」
片や、悪友である同心見習いの吉五郎の身にも新たな縁談が持ち込まれるなど、今回は江戸時代の婚姻事情が背景にある作品が集まった。
「当時の縁談の大変さというのは、家と家との結びつきで、夫婦ふたりだけのことで済まないというところにあるんですよね。そして、死別も離婚も多かった。今からすると、独り者にはありがたかったところもあって、まわりがよってたかってまとめちゃう。お見合いも、相手をよく知らないままに結婚して、そこから知り合って、だんだん相手をわかっていくようになる。そういう事情を書けたらと思いました」
「まんまこと」シリーズならではの、麻之助が導き出す意外な解決は本作でも鮮やかに決まる。
「アイデアは、歩いているときに浮かぶことが多いですね。いつも、家から四、五キロ歩きながら、その途中で思いついたアイデアを、喫茶店でまとめるんです」
自身の縁談に翻弄される一方で、「八丁堀の引っ越し」と「名指し」では、麻之助は町名主の跡取りとしての役目も果たしていく。そして、本作の結びとなる「えんむすび」「いわいごと」の二篇では、物語は急展開を迎え、こじれていた麻之助の縁談は、意外な決着を見せる。
「わたしが書いているいくつかのシリーズのなかでも『まんまこと』は時間の流れと物語の動きが早くて。最初の妻・お寿ずさんを亡くした麻之助にもようやく元気が出てきました。父親の宗右衛門も支配町のひとたちも、そんな麻之助にやいのやいの言うのが楽しいんでしょうね。彼らがどう変わっていくのかを、この先、さらに書いていきたいと思います」
はたけなかめぐみ 高知県生まれ。二〇〇一年『しゃばけ』で第十三回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。一六年、「しゃばけ」シリーズで第一回吉川英治文庫賞を受賞。