
ヨーロッパは、地理的には、ユーラシア大陸の西端に突き出た半島にすぎない。高緯度に位置するため、植生は貧しい。しかし、ヨーロッパが近代社会を形成したばかりか、世界を支配した一時期があったことも事実である。そのためわれわれは、長いあいだ、ヨーロッパの優越を、「当たり前のこと」としてとらえてきた。
しかしそれは、決して「当たり前」の現象ではない。ヨーロッパは、アジアと比較して、太古から強力な軍隊をもっていたわけではなく、生活水準が高かったわけでもない。ヨーロッパの優位は、歴史的には比較的最近のことにすぎなかったのである。
もしヨーロッパ優位の時代を「近代」と呼ぶとしたら、その開始は、16世紀に求められよう。16世紀は、ローカルなヨーロッパから、グローバルなヨーロッパへの転換期であったからだ。
では、16世紀の世界には、いったいどのような特徴があったのだろうか。この時代の世界史を大きく動かしたのは、果たしてなんだったのだろうか。
ヨーロッパの人々にとって、近代の幕開けを象徴するのは、「ルネサンス」と「宗教改革」である。この二つによって、人々の精神は中世的な教会のくびきを脱し、自由な思考、自由な信仰の「近代精神」の時代がはじまった──としてきた。
しかし、それは近代ヨーロッパ人が「そうありたい」と望んだ理想的な自画像であり、決して事実とはいえない。後述するように「ルネサンス」にも「宗教改革」にも、多分に中世的要素が含まれているからだ。
グローバル化が変えた世界
本書で強調したいのは、交易と航海によってもたらされた「グローバル化」である。そこでは、プロテスタントよりもむしろカトリックが、国でいえばルネサンスのイタリアよりも、ポルトガル、スペインが主役となる。
1492年にコロンブス(1451~1506)が新世界を「発見」し、大西洋という広大な領域がヨーロッパ人に提供されたことは、それ以降の世界史を大きく変えた。
1498年にはヴァスコ・ダ・ガマ(1460頃~1524)がインドに到達し、ヨーロッパ人は、アジアに喜望峰ルートで航海することができるようになった。この交易ネットワークが拡大、発展したのが16世紀である。
そのグローバルな交易ネットワークに、ヨーロッパ、アラブ世界、アフリカのみならず、広大なロシア世界、インド、中国、東南アジア、そして日本も組み込まれていった。
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