ヤマザキ 中野さんとは、これまでにテレビで共演したり、雑誌で対談もしましたが、新型コロナで引きこもり生活の間、LINEでやりとりをしていたら話題がどんどんディープになってしまって、これはどこかで、ソーシャル・ディスタンスを保ちつつ、お会いして喋った方がいいんじゃないかという話になったんでしたよね。
中野 こんなご時世だから直接お会いするわけにもいきませんけど、マリさんとお話ししているうちに、感染症に俄然興味がわいてきたんです。現代はワクチンや抗生物質ができているので、正直なところパンデミックというのは過去の事件であって、現代においては容易にコントロールできるもののはずだとどこかで思いこんでいたんですよね。それが、いわゆる先進国であり、公衆衛生に対する意識もそう低くはないはずの国々でも、瞬く間に感染が拡大していきました。信じられないような思いでした。
そんなときにマリさんから古代ローマ帝国の弱体化にも感染症が影響していたことを教えていただいて、すごく印象的だったんです。
ヤマザキ 私たちは電話をしても、「今日はこんなご飯を食べました」なんて話はしないですよね。ほぼ古今東西の人間や社会についての分析ばかり(笑)。NHKとかテレビ番組でも百年前のスペイン風邪については特集を組んだりしていましたけど、さすがに古代ローマ帝国の頃に大流行したペストや天然痘の話を真剣にしたくなる人は、そうそんじょそこらにはいない。
中野 私たち二人だけのプライベートなおしゃべりで終わらせてしまうのは惜しいですねと、それで急遽、改めて対談をして一冊にできないかと思い立ったわけです。
古代ローマの話はもちろんですが、マリさんはイタリア人のご主人とご結婚されているから、日本と行ったり来たり。今回の新型コロナに対するイタリアの方々の反応と、私たち日本人の感覚がまるで違うと聞いて、それもとても興味深く感じました。
それで、歴史という縦軸と、日本とヨーロッパという地域の横軸を掛け合わせて感染症を語ってみたら、文明史的な観点から現在という時を俯瞰する面白い議論ができ、きっと多くの人の思考に役に立ててもらえる本ができるだろうなと思ったんです。
ヤマザキ イタリア人にとって感染症やパンデミックというものは、例えば一四世紀の黒死病という呪われた過去や前世紀のスペイン風邪が頭をよぎるわけですよ。うちの夫の親族もスペイン風邪で亡くなってますが、そんな彼らからすれば、街をロックダウン(都市封鎖)もせずに自粛要請だけの日本の対応は全然理解できないわけです。イタリアではまだそれほど感染者が多くない時からSNSなどでも、皆「スト・ア・カーサ!(私は、家にいます!)」と宣言する自分の動画を拡散してました。
私が日本に帰ってきていたこともあって、夫と電話すると衝突の連続。今回ほど国際結婚がどんなに大変なものか思い知らされたことはありませんよ。
中野 国際結婚でなくても夫婦で意見が分かれて、大変になった人たちも多いようですよ。イタリア人から見れば日本は感染症対策があまいのに、「自粛警察」という怖い人たちが出没したり、一方のイタリア人は日本では定着しているマスクを全然しようとしなかったり、不思議なことも多かったですね。
ヤマザキ そのあたりも含めて、まずは話し始めてみましょうか。
中野 はい、そうですね。ちなみに、緊急事態宣言が解除されたばかりなので、感染予防の観点から、この対談はオンラインで行いました。
二〇二〇年六月
(「対談のはじめに」より)
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