- 2021.06.29
- インタビュー・対談
三つの時代にまたがる悲劇を描くミステリー――『雷神』(道尾秀介)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
秘密から生まれる悲劇のつらなりを描く
道尾秀介さんの待望の新作『雷神』は、秘密から生まれた悲劇のつらなりを緻密な構成で描くミステリーだ。
「過去に『龍神の雨』『風神の手』と書いてきて、今回は雷神。三十年前に空から落ちてきた一すじの雷撃が、物語の引き金になっています。現代における神とは何か、というテーマも含んだ話なので、余計なものを付け加えずストレートなタイトルを選びました」
埼玉で小料理屋を営む幸人(ゆきひと)は脅迫電話を受ける。相手が示唆する「秘密」は、娘の夕見(ゆみ)には絶対に明かせないものだった。心労で倒れた幸人と、彼の姉の亜沙実に、夕見は「行ってみたい場所がある」と、写真集の中の一ページを見せる。その撮影場所は姉弟の生まれ故郷、新潟県・羽田上村と記されていた。
過去と向き合う覚悟を決めた幸人は、夕見と亜沙実とともに、三十年ぶりに村へ赴く。そこは、数々の悲劇が起きた場所であった。昭和の終わりに不審な死を遂げた母。その翌年、村の伝統祭「神鳴講」の日に落雷の直撃を受けて生死の境をさまよった亜沙実。そして、その祭りで出されたキノコ汁を食べて二人が死亡し、二人が重症に陥った事件。その犯人とされながら、逮捕をまぬがれて村を逃げ出した父。事件の真相を目撃した宮司は、それを手紙に書き残して自殺していた。
「天皇の死による時代の移り変わりと、人間の死や成長による世代の移り変わり、またそこで蓄積されていくエネルギーを書こうと思いました。ほんの小さな出来事が、三十年という歳月を経るうちに大きな力に変わる。それが新たな悲劇を引き起こしたり、ときには遠隔で人を殺したりもする」
惨劇の謎を追う幸人たちは正体を伏せて、事件を調べ直す。村で出会った元看護師は、事件前後の出来事を記憶していた。幸人の母が、死に際に病室で口にした「キノコを食べちゃ駄目」という言葉。そして父が呟いた、ある衝撃的な一言。それらの言葉の意味することがわからず、幸人たちは混迷の淵に落とされてしまう。
その夜、またしても雷撃が村を揺るがし、新たな悲劇が幕を開け――。
「この作品が完成したとき、自分の理想とするミステリーが書けた、と思いました。担当編集者にそう告げると、『道尾さんの理想のミステリーとは何ですか』と尋ねられたんですが、言葉で表すのは難しい。でも喩えるなら、もし自分が読んだらガックリと肩を落とし、小説を書く気がなくなってしまうような作品です。それを自分で書くのは論理的に不可能ですが、たまにこうやって書けちゃうことがあります」
みちおしゅうすけ 一九七五年東京都出身。二〇〇四年『背の眼』でデビュー。一一年『月と蟹』で直木賞受賞。近著に『いけない』『スケルトン・キー』『カエルの小指』など。
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