- 2019.12.28
- インタビュー・対談
冬休みの読書ガイドに! 2019年の傑作ミステリーはこれだ! <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2019年の傑作をおすすめします。
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#エンタメ・ミステリ
司会 年末恒例の「週刊文春ミステリーベスト10」が出たことですし、ふだんミステリーを担当している編集者が集まって、主に文春のものを中心に、2019年のおすすめ作品を紹介できたらという企画です。参加者はベテラン編集長のOさん、翻訳ミステリー担当部長のNさん、電子書籍担当のAさん、単行本担当のKさん、雑誌担当のIさん。まず国内部門から見ていきましょう。1位は横山秀夫さんの『ノースライト』(新潮社)ですね。
O 感動作です。横山さんといえば『64』(文春文庫)といった警察小説が有名ですが、今回の主人公はいちど挫折した建築家なんです。一級建築士の彼は、友人の事務所に入って下働きをし、そこで設計した別荘が非常に高く評価されるんですね。それを機に彼は有名建築家になっていくんですけど、なんと、彼の代表作となった別荘の持ち主が、その家にまったく住んでいなかった。この衝撃の事実が判明するところからミステリーが始まります。
K 面白い導入ですよね。殺人事件も起きませんし、横山さんの新境地なのではないでしょうか。
O 主人公が家を訪れると、謎の椅子が一脚、置いてあって、その椅子が謎を解くきっかけになる。この謎解きのプロセスもいいんですけど、最後、登場人物たちがたたみかけるように心をひとつにするシーンがあるんです。僕は読んでいて涙を流しましたね。
I 2位は奥田英朗さん『罪の轍』(新潮社)です。昭和38年、前回の東京オリンピックを翌年に控えた東京を舞台にしています。「吉展ちゃん事件」をモチーフにした誘拐ものなんですが、地方の貧しさ、東京の貧富の格差などが大変なリアリティで描かれている。さらに、伝説の名刑事といわれる平塚八兵衛をモデルにしたような“落としの名人”のベテラン刑事が登場するんですけど、当時、警視庁内で台頭してきた大卒の若手エリート刑事と、学歴のないたたき上げのベテラン刑事とのやりとりが実に生々しくて面白いんです!
N 水上勉の『飢餓海峡』へのオマージュだという人もいますね。そういう意味でも堂々たる社会派ミステリーを継承する作品といっていいと思います。
限界集落の実情がリアルに
司会 そろそろ文春の作品を紹介しましょう。4位が米澤穂信さんの『Iの悲劇』(文藝春秋)。
K 米澤さんは2018年末に『本と鍵の季節』(集英社)も出していて、めずらしくノンシリーズものが続いた1年になりました。『本と鍵の季節』は高校2年の図書委員の男子ふたりを主人公にした青春ミステリー。本の紹介もたくさん盛り込まれて、いわゆる本好き、青春ミステリー好きに支持されるような、爽やかであり苦みもある、実に米澤さんらしい1冊でした。いっぽうの『Iの悲劇』は、『本と鍵の季節』とはまったくタイプの違う小説です。地方行政、大人の世界が描かれていて、一見、「これ、米澤さんの作品なの?」と不思議に思えるほど意外性のある舞台設定ですよね。読み終えてみると、完全に米澤さんの意図のもとに構築された精緻なミステリーだとわかるんですけれど。
I 地方の公務員を主人公にして、廃村状態の無人集落を復活させるプロジェクトを描いた作品です。外部からいろんな家族をIターンで呼び寄せ、なんとか集落をつくろうとするものの、なぜか不可解なトラブルが頻発する。限界集落の実情がリアルに描かれていたり、地方の人口減少の問題を扱ったりしているので、入り口の構えは社会派ミステリーであるともいえます。むしろ、間口が広がったというか、これまで米澤さんの本が気になりつつも読むきっかけがなかった人にとっては入りやすいんじゃないでしょうか。決して青春青春していないし、ブッキッシュでもないし。
K 社会派ミステリーとして読めるし、ミステリー純度もきわめて高いというのが特徴ですね。この小説には、全国の書店員さんから感想をいっぱいいただいたんですけど、地方と都会とで真っ二つにわかれました。地方の書店員さんは「他人事じゃない」とすごく深刻味をもって読んでいて、読後、ダメージを受けている人が多かったんです。それに対して都市部の書店員さんは「面白かったです!」と、素直に楽しんでくれている。読む人によって感想の違うミステリーでもありました。
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