- 2021.12.01
- インタビュー・対談
文豪から現役棋士まで登場! 出版社の〈日常の謎〉を名手が鮮やかに解く――『中野のお父さんの快刀乱麻』(北村薫)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
「雑誌や本を読んでいると、思いがけないところで『あれ?』と感じるエピソードに出会うことがあります。『中野のお父さん』シリーズは、そのように私が“たまたま出会った謎”をあの手この手を使って解決していくので、作家自身が作った謎を解いていく一般的なミステリー小説とは、また別の面白さがあると思います」
文芸編集者の田川美希と国語教師の父が、日常に潜む様々な謎を解いていく人気シリーズ第三弾『中野のお父さんの快刀乱麻』。ある文学作品の名付け親から、大作家の印税、映画のセリフに至るまで、誰も気が付かないような、しかし興味深い“謎”が、多種多様な資料を元に、実にあざやかな手付きで紐解かれていく。収録作「菊池寛の将棋小説」では、二人の現役棋士、先崎学9段と室谷由紀女流3段、さらに菊池寛の研究者への取材を実施。書物に留まらない、著者自身が“足を使った”謎解きとなった。
「菊池寛の短編小説『石本検校』に関して、50年以上前から抱えていた謎があったんです。たまたま『オール讀物』で将棋特集が組まれたこともあり、今度こそ解決するぞ、という強い気持ちで挑戦しました。棋士の方に取材したことで、頭のなかで考えているだけでは書けないネタに遭遇し、物語が広がっていきました。専門家の方の論文にも、大きな手がかりがありましたね。もちろん、単に取材の成果を落とし込んだだけの物語ではなく、私の見せ場、オリジナルの謎解きもありますよ!」
シリーズ三作を通じて、多くの発見をしてきた北村さん。その根底にあるのは「通説は一体どこまで“事実”なのか」という好奇心だ。
「ものを調べる、考える上での基本は、原典に当たることだと思います。それを繰り返していくうちに、ふと通説を覆すような事実を知ることがある。現代のようなネット社会では、パッと検索するだけで多くの情報が出てきます。それが事実かどうかを確かめることなく、鵜呑みにして拡散する傾向も強い。警鐘というと大げさですが、このシリーズでは、本を通じて調べることの醍醐味を味わっていただきたいです」
美希をめぐる人間模様、編集部の様子も読みどころのひとつ。なかでも北村さんが注目しているのは、彼女の恋愛事情だという。
「コロナ禍で人とのお付き合いが制限されてしまいましたから、美希にとっては痛手でした。彼女は恋愛上手ではなさそうなので、どうなるんだろう、大丈夫かな、と心配しながら書きました。娘というよりも、孫を見守るような気持ちでいますね(笑)」
きたむらかおる 1949年埼玉県生まれ。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、2009年『鷺と雪』で直木賞受賞。アンソロジーやエッセイ、評論なども多数執筆。
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