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直木賞候補作家インタビュー「互いを見守る男女四人の再生の物語」――彩瀬まる

直木賞候補作家インタビュー「互いを見守る男女四人の再生の物語」――彩瀬まる

インタビュー・構成:「オール讀物」編集部

第166回直木賞候補作『新しい星』

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

『新しい星』(彩瀬 まる/文藝春秋)

 高校生直木賞を受賞した『くちなし』や映画化が決定した『やがて海へと届く』など、常に話題作を刊行してきた彩瀬まるさん。本作では三十代にさしかかった男女四人の人生の交流を描く。

「二十代のうちに抱えていた悩みやトラブルというのは、わりとフランクに話しやすかったと思うんです。でも、結婚や出産などでお互いの環境がかわっていくと、友人同士でも、その問題を話すことが複雑になっていってしまいますよね」

 幸せな結婚生活を送っていた青子に、思いがけない悲劇がふりかかるところから物語は始まる。それはまだ生まれたばかりの一人娘の死だった。夫とは離婚し、職場でも理不尽な扱いを受けていた青子は、両親ともうまくいかない日々を過ごす。そんな青子にとって、大学時代からの親友・茅乃との付き合いは、心が安らぐ時間であった。

 いつものように、ふたりで会う約束をした青子に、茅乃は乳癌になったことを告げる。五歳の娘をもつ茅乃の苦しみを、青子は静かに共有する――。

「自分が三十代になって、病気や家族の問題など、若い時にこういう悩みを持つとは思わなかったようなことが増えました。信頼できる人でないと打ち明けることができないんです」

 術後のリハビリのため、大学時代の合気道部の仲間たちと集まって稽古をはじめることになった茅乃と青子は、当時から仲の良かった同期の玄也と卓馬と再会する。玄也と卓馬もまた、それぞれに悩みを抱えていた――。

「悩みが共有しにくいことは辛いですけど、ひとりで抱え込んで戦うのも難しいです。それを小説で書くことで、はじめて自分でも悩みを語る勇気が出ると思いました。また、読者にとっても、誰かにヘルプコールが出せるようになるといいなと。互いに、悩みを直接解決することはできなくても、困っているのだと認識することで見守ることはできる。悩みを抱えたまま、楽しく生きていくこともできるし、悩みに人生を乗っ取られずに生きていく姿を描けたらと思いました」

 多くの小説では、病気などで抱えた悩みだけがクローズアップされるのが気になっていたという彩瀬さん。

「日常で悩みを話すことはあっても、会話の後半は別のことを話している。そんな自然な感じも書いて、小説の中で病気などが持つ記号的な事象をやめたいと思いました。ラストシーンも、想定とは違うものが書けてよかったです」

 互いの人生を見守り合いながら生きる四人の、それぞれの喪失と再生に寄りそう静謐だが力強い物語だ。

彩瀬まる(あやせまる)

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で第九回女による女のためのR-18文学賞読者賞受賞。著書に『くちなし』『森があふれる』『川のほとりで羽化するぼくら』など。


第166回直木三十五賞選考会は2022年1月19日(水)に行われ、当日発表されます。

(「オール讀物」1月号より)

単行本
新しい星
彩瀬まる

定価:1,650円(税込)発売日:2021年11月24日

電子書籍
新しい星
彩瀬まる

発売日:2021年11月24日

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