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直木賞候補作家インタビュー「最強の石垣は城を守りきれるか!?」――今村翔吾

直木賞候補作家インタビュー「最強の石垣は城を守りきれるか!?」――今村翔吾

インタビュー・構成:「オール讀物」編集部

第166回直木賞候補作『塞王(さいおう)の楯(たて)』

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

『塞王の楯』(今村 翔吾/集英社)

 石田三成の密かな野望に迫った『八本目の槍』、戦国の梟雄(きょうゆう)・松永久秀の真の姿をあぶりだした『じんかん』、そして本作『塞王の楯』。著者にとって、3冊連続で単行本は戦国時代が舞台となった。

「この時代は人気があって、素晴らしい先行作もたくさんあります。現代の作家はそこに悩みつつ、地方やマイナーな武将に光をあてるなど、色んな工夫をしていますよね。僕は山本兼一さんの『火天の城』のような大きなプロジェクトを担う、職人を主人公に書いてみたいというところから、この作品の構想をスタートさせました」

 子供の頃から城を見るのも、その蘊蓄に耳を傾けるのも大好きだったという今村さんが、着目したのは城の守りを固める石垣だ。特に日本には自然石を組み上げて堅牢な要塞を築き上げる〈穴太衆(あのうしゅう)〉という職能集団が、かつて近江に存在した。

「築城の縄張り(設計図)というのは、有事の際には秘事中の秘事。だから彼らの技術は一切紙には残さず、すべてが口伝で、起源も定かではありませんが、戦争が起こった時、彼らも武将らと一緒に城に籠ったという記述が残っています。いったい何のために石工たちが城に入ったのか……」

 理由として考えられるのは、穴太衆たちが戦闘によって壊れた石垣を逐次修復するため。さらに敵の攻め方に応じて城内で何らかの作事を行うことによって、より優位に籠城戦を進めることができたのではないかという、大胆な仮説を立ててみた。

「穴太衆の技術を唯一現代に受け継ぐ、粟田建設十五代目社長にそれだけで本が一冊書けるくらい、根掘り葉掘り取材をしました。そこで本来は動かぬはずの石垣を使って、逆に物語が躍動する自分らしい小説が書けると確信しました。いい小説が書ける時はアイディアもどんどん出てくるし、資料からの発見も次々にあるんですが、今回がまさにそうでした」

 幼い頃に落城で家族を喪い、「絶対に破られない石垣」を造ろうと奮闘する主人公の飛田匡介(とびたきょうすけ)に対し、「どんな城でも落とす砲」を作ろうとする鉄砲職人の国友彦九郎(くにともげんくろう)。宿命のライバルは、関ヶ原の直前、西軍の大軍に囲まれた大津城で激突することとなる。

「結果からいえば京極高次(きょうごくたかつぐ)を城主とする大津城は、立花宗茂(たちばなむねしげ)を擁する西軍の猛攻にあって降伏しますが、その直後、関ヶ原では東軍が勝ちます。本当の勝者は誰であったのか――さまざまな因縁が錯綜した戦国時代の最終決着という意味でも、本作にちりばめた企みを楽しんでほしいです」

(c)山口真由子

今村翔吾(いまむらしょうご)

1984年京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。20年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞、『じんかん』で山田風太郎賞受賞。


第166回直木三十五賞選考会は2022年1月19日(水)に行われ、当日発表されます。

(「オール讀物」1月号より)

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