- 2022.02.04
- インタビュー・対談
火村シリーズ、誕生30年! 待望の最新長編はコロナ禍の殺人事件を追う――『捜査線上の夕映え』(有栖川有栖)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
コロナ禍で名探偵であるということ
犯罪社会学者の火村英生と作家の有栖川有栖(アリス)が難事件を解決する人気シリーズも、第一作『46番目の密室』から30年を迎えた。
本作は、マスクをつけたアリスが久しぶりの遠出で、大阪駅から見事な夕映えを眺める場面に幕を開ける。
「火村もアリスもずっと34歳。作中で年を取らないんだから、時代の流れを無視することもできそうなものですが、逆にいうと彼らは常に現代にいるんです。なので、さすがにコロナほど大きな現実にほっかむりして書くことはできないなと思いました」
マンションの一室でスーツケースの中から発見された他殺体。すぐに容疑者が浮上、防犯カメラには人の出入りもしっかり録画されていた。だが、マスクのせいもあり決め手に欠け、予想外に難航する捜査に火村が呼ばれる。外出自粛のため久々の臨場となる火村とアリスを歓迎する、船曳や鮫山、コマチこと高柳、熱血若手・森下ら馴染みの警察メンバー。しかし初対面となる女性署長の中貝家だけは部外者の参加に戸惑う。そんな彼女に船曳警部は、火村にかかると「地味な事件がファンタジーになる」と説明する。
「そもそも名探偵という存在は絵空事で、ファンタジー的です。今回は題名に捜査線とある通り、警察の捜査をリアルに書きつつ、名探偵の活躍もしっかり描くために“ここからは名探偵の領域”という切り替えのタイミングを慎重に計りました」
捜査の進展で浮かび上がったのは、瀬戸内の小さな島。そこで起きた過去の事件には、容疑者だけでなく、火村たちがよく知るある人物も関わっていた。舞台転換と共に物語は名探偵の見せ場へと一気に飛躍する。
「準レギュラーの過去が分かる話にしようというのは最初から頭にありました。それと、いつか瀬戸内を舞台にしたいなと思っていたのが、こういう形で結び付くというのは自分でも意外でしたけど。構想段階ではコロナのことなんか想像もしていなかったですが、結果的には移動の難しい時代にあって“旅”がキーワードの作品になりましたね。登場人物たちの過去が今の事件に絡んでくるという点で時間の経過が大きな意味を持ってくるので、空間的な旅だけでなく、時間的な旅の物語にもなったと思います」
過去といえば、シリーズ読者には火村の過去も気になるところだが……。
「過去のあれこれが現在のあの準レギュラーを作っていると描いたのと同じく、火村にも過去は“あるんやで”とだけ(笑)。いつか語られるのか、謎のままかは私にも分かりませんが」
ありすがわありす 1959年大阪府生まれ。89年『月光ゲーム』でデビュー。今作は2018年吉川英治文庫賞受賞の「火村英生(作家アリス)シリーズ」最新長編。